4.ピンクポッチーズ?
[The birds fly away from the flock...]
「……まあ、地図上の座標に罪はありませんが」
一挙に開けた視界。ぐっと近くなった太陽に目を細めながら、茜子がそう呟いた。
週末。こよりが連れてきてくれたのは、良い意味でも悪い意味でも、僕らの予想を裏切ってくれるところだった。お昼過ぎに待ち合わせをしていた僕たちは一旦溜まり場にて集合した後、こよりんの先導で約束の「遊び場所」へ。どこへ連れていってくれるのか、こよりのゆらゆら揺れるお下げを見ながら期待半分不安半分で進んでいくうち、おそらくは僕と茜子がほぼ同時に、ちょっと遅れて花鶏が、どこへ行く気なのかをなんとなく察して。
だって、みんなで遊びに行くと言ったら普通は郊外の方か、あるいは駅に向かって行くはずだろう。それなのにこよりは「すぐ近くです」と言い、なぜか街の中央の方向へと僕らを率いていったのだ。その時点でもしかしたらと思い、その道順を辿るにつれて僕の推測は確信へと変わっていった。
どこにも一人では行けなかったこより。今だって決して行動範囲は広くない彼女が僕らを連れて行く場所なんて限られていて、それが街の中央部にあるとなれば、もう考えるまでもないことだ。
そう。
僕らは今、CAコーポの屋上に居る。
「確かに眺めは良いわ。風も気持ちいいし、こよりちゃんじゃなきゃ連れて来れない場所でもある。けど……ここは正直どうよ?」
着いて早々、長い髪を風に靡かせながらの花鶏の呟き。
そしてそれはまた僕たちの気持ちの代弁でもあると言えるだろう。
CAコーポレーション。こよりのお姉ちゃん――小夜里さんが勤めているこの会社とは、僕らは浅からぬ因縁があった。ラトゥイリの星を巡る一連の出来事。小夜里さんは僕らを監視していて、ラトゥイリの星を奪おうとして、仲違いするよう仕向け、僕らが呪いを解くのを妨害しようとし続けていた。央輝が言うことには僕らの「力」を利用したいが為だったという。
それらに加え、ここに監視員の一人であるライダーを連れてきたときの対応。あれに僕らが怒りを感じたことはこよりだって知っているはずだし、またこよりとてその時に姉との溝を強烈に感じたはずだった。
なればこその花鶏の疑問。
つまり、なぜ今になって僕らをここに連れてくるのか、と。
「そ、それは、そのう……」
されるのは分かっていた質問だろうに、こよりはちょっとだけ言い淀んで。
「ええっとですね、お姉ちゃんと仲直りできたからっていうか……」
「え、それ初耳だよ。本当?」
「ああいえ、仲直りをきちんとしたわけじゃないんですけど、お姉ちゃんも優しくなってくれたっていうか、悪いとは思ってくれてたというか」
「どういうことよ? お姉さん、もしかして『あなたには悪いことした』とかって謝ったりしたの?」
「いやあ、そういうわけでもないんですけど……」
「じゃあつまりアレですか。ろりりんが現実に絶望し、脳内二次元お姉さんが謝ったという妄想をでっち上げただけですか」
「ち、違いますよう! お姉ちゃんは、お姉ちゃんは……ううう、ともセンパ〜イ!」
むぎゅう、と目を×にしたこよりに泣きつかれる。
とはいえたとえ僕でも、流石に知らない事態の説明を代わってあげることはできないわけで。
「うーん」
こよりの頭をなでなでしつつ、小首を傾げて困ってみる。
見る限り、こよりにはこよりなりの意図があったように思えてならない。小夜里さん相手には新聞社の世論調査並にバイアスをかけてしまうこよりだけれど、それでも他人の感情の機微が読めないほどの馬鹿じゃない。むしろそんな馬鹿じゃないからこそ、誰かと一緒に居なければならないというあの呪いに恐怖を感じてしまえたはずだ。
一方、小夜里さんの方はというと、僕にはやっぱりよく分からなかった。今日このビルで僕らを出迎えてくれたのもあの人だったし、この屋上まで連れてきてくれたのも実は彼女だった。だから接する時間は多少なりともあったのだけれど、こよりが弱点であろうという点をも含めて、彼女の態度はやはり以前のそれと大して変わっていなかったと言っていい。
「茜子はどう思う?」
色んな意味でにぶちんのるいと伊代、それに不機嫌そうな花鶏を避けて、茜子にそう聞いてみる。
「そうですね。マジレスすると、このちびウサの力と呪いにあのリアル姉は思うところがあったはずです。それが解消されたとなれば、まあ私はあのボトムライン更新父が今更どう私のことを思い直そうと地下鉄の人身事故なみに知ったこっちゃありませんが、こっちはそうもいかないということでしょう」
「それはつまり、ようやく訪れた雪解けに双方戸惑ってるとか、そういう系ってこと? でも小夜里さん、あまり変わったようには見えなかったけど……」
「見ただけでは相手の感情は分かりません」
ぴしゃりと言われる。
「……ええと」
思わず口籠もって。
「それよりいつまでそのろりりんと抱き合ってるんですか。浮気現場を見せつけての放置プレイとか、その鬼畜っぷりに茜子さん思わず空鍋をかき回しそうです」
「そうよそう! 茅場はどうでもいいけど、こよりちゃんも抱きつくなら智じゃなくてわたしの方に来なさいよね。……ま、智に正面から襲いかかりたい気持ち、分からなくもないけれど」
「分からなくていいよ!」
思わずツッコミ。
それから、腰にぎゅっと手を回してぐずついてたこよりに離れるよう促す。案外簡単に離れてくれて、反対に今度は背中側から茜子がひっついてきた。腕は僕のお腹の方まで回しつつ、頭を脇の下からにょきっと出してきたりしていたけれど、こっちはもう好きなようにさせることにする。
「それでどうなの、こより。小夜里さんと仲良くしたかったから、僕たちと一緒にここに来たの?」
「でも何年も仲違いしたままだったんでしょう? わたしたちはあなたのお姉さんのことをやっぱりよくは知らないし、あっちだってわたしたちと敵対していたことは理解しているはずだから、仲直りを仲介する第三者としてわたしたちは適していないと思うけど」
「……」
「……」
「……え、何? 何よ?」
「先生、やっちゃってください」
脇の下から呆れたような声。とはいえ僕も乾いた笑いを浮かべることしかできなくて、哀れ、「パラダイスフィンガー!」のかけ声と共に伊代と花鶏がきゃあきゃあと騒ぎ始める。
ま、あっちは放っておくとして。
「で、どうなのかな?」
言うと、いつもよりは少しだけ沈んだ、でもやっぱり僕と同じく乾いた笑いを浮かべていたこよりがこっちへと向き直る。
「ええとですね、あの、お姉ちゃんと仲直りをしたくはもちろんあるんですけど、そのためにセンパイたちを呼んだわけじゃないです。むしろ仲直りできたから呼べたって言うか……」
「でも、仲直りしたわけじゃないんでしょ?」
「んーと、んーと……その、お姉ちゃん、ちょっと前までだったら、こよりがここに来たいって言っても、入れてはくれなかったと思うんです」
「まあそうだろうねえ」
小夜里さんはビジネスマンだ。たとえこよりのお願いであろうと、自社の利益にならないであろうそんな私事のために会社の屋上を開放したりはしないだろう。
にも関わらず今日はこうして迎え入れてもらったのは、他ならぬこよりの要望であったからで――――うん?
「ああそっか。逆なんだ」
「性別がですか」
「順序がだよ!」
だいたい性別が逆ってなにさ。逆って。
……まあともかく。つまり僕らをここに入れてくれたことこそが、小夜里さんがこよりに対して特別な配慮をしてくれるようになった証だということだ。多少扱いの違いはあったにせよ、実の妹までビジネスライクな取引を要求していたことを考えれば確かに大きな変化に違いない。
それをこよりは「仲直りしたけど、仲直りしてない」と表現している、と。たぶんこの解釈であってると思う。
「ふむ。じゃあそこのちみっこは、この美少女軍団一の小者を見習ったというわけですね」
「ほへ?」
「見習った? 僕を? なんで?」
「おや、お分かりでない? 純朴そうな顔で頼み事をしておいて、その実、それは相手の信頼を測るためのものだった。そんな陰険で姑息な手段を使ったのはこのブルマっ子に感化されたせいに違いありません」
「そんなことないですようっ!? こよりはそんな風に考えてやったわけじゃありません! 受けてくれるか、心配だったのは事実ですけど」
「……僕がそういう手段を使いそう、ってところは否定してくれないんだ」
「あ、いえ、そんなつもりは……はう」
再び目が×に。僕の脇の下からは「くけけけ」と奇っ怪な声もしてきた。
まあこよりのことだ、実際にそんな余裕があったはずがないとは思う。恐らく真っ先にこのCAコーポの屋上が候補地に思いついて、その後は小夜里さんにその提案をすることにかなり緊張したはずだ。あんまりおバカさんでもないのに焦ると周りが見えなくなるタイプのこよりが、茜子の言ったような策を巡らすはずがない。そしてそんなこよりの――ある意味ではちょっと間抜けな――純真すぎる頼み事だったからこそ、小夜里さんは受け入れてしまったのではないか。どちらかといえば小夜里さんと同じような考え方で、同じくこよりのお姉さん的立場である僕には、そう思えた。
「でもお姉ちゃんは、やっぱり大人ですから。謝ったら責任が発生してしまう。だから謝ることができない。そのくらいはこよりにも分かります」
「それでも個人的にはこよりや僕らに対して悪い気持ちがあるから、何か理由をつけてこの屋上を開放したってことかな……。そういうの、悪くないよね」
「ホンネとタテマエですか。そういう回答はどこかの誰かが得意ですよね、本日のラッキーカラーが玉虫色のブルマリアンさん」
「確かにそうである可能性がないわけではありませんが、そうでない可能性がないわけでもありません」
「政治家的答弁きた」
公式な回答は所轄官庁の調査を待っていただきたく。
「うん、でも、いいと思うな、こういうの。たとえ謝ってもらえずとも、こよりは小夜里さんを信じてるってことだもんね」
「うにゅ〜……」
なでなで。
褒められたことも相まって、こよりが気持ちよさそうに目を細める。相も変わらず小動物系。
「姉上も意外と甘いようで」
こっちは呆れ気味に目を閉じて、茜子さん。それでも批難の言葉がその口から出てこないのは、それがあまりに甘い考えであると同時に、とても幸せなことであることをよく分かっているせいだろう。
ホンネは誰にも分からない。誰かを信じるというのはとかく難しくて、大人でない僕らですらその不可視性にたいへん苦労させられた。それでも僕らには共通の目的のための「同盟」があって、だからなんとか頑張れた。
それがこよりと小夜里さんはどうだ。僕らは、血の繋がりすらお互いの信頼を保証しないことをよく知っている。だからこよりが小夜里さんを、「大人」である小夜里さんを信頼するのは、かつての僕らからすればあまりに甘くて愚かであると思えてしまうに違いない。子どもの僕らは「みんなを信じてる」と言い合ってすら相手を信じられなかったのに。今はそれを口にすることすらしない大人を信頼しようとしているのだから。
でもそれは、こよりが馬鹿だから、なんてわけじゃ断じてない。
こよりは既に知っている。誰かを信頼することの辛さを。それを知らずに相手を信頼するのは単なる無知。けど、それを知っているのに相手を信頼するのはこよりの覚悟と勇気によるものだ。
僕らはもう、誰とも同盟を結んでいない。これから結ぶこともないだろう。同盟が、痣が、血縁が、繋がりを保証してくれるわけではないことを僕らは既に知ったから。それでもモラトリアムな僕らはいつか「大人」になっていき、ゆえにいつかきっと必要になる。痛みを覚悟で、タテマエですら自分を信頼すると言ってくれない誰かを信頼するという勇気が。
きっと裏切られることもあるだろう。でも、だからって誰も信頼しないのではどうにもならないこともまた、僕らはよく分かっている。呪われた世界を生き抜くのは、たった独りでは不可能なのだから。
「うん。だから、こよりは偉いんだ」
「はうう……ともセンパイ……」
「これだから八方美人の気安いさんは」
むきゅーっと唸るこよりと、溜息吐きつつの茜子さん。
やがて伊代アッパーから復活した花鶏がるいとぎゃあぎゃあ揉め始めるまで、僕らはちょっと離れた場所でそのままのんびりと過ごしていたのだった。
「おおおお……っ! 高い、高いですよ、ともセンパイ!」
「ビルの屋上だからね〜」
ひとまずいつも通りの騒ぎを楽しんだ僕たちは、そろって屋上の端っこまで歩いていって、眼下に広がる光景を見渡してみることにした。
この頃までには花鶏も機嫌を直していて、まあるいも含め完全に納得したわけではないのだろうけれど、せっかくの機会を逃す必要もないだろう、二人とも落ち着いた態度でこの遥かな高みからの絶景をとりあえずは楽しんでいた。
「うーん、良い眺め。でも欲を言えば、こういう場所はひっそりと忍び込んだ結果として楽しみたいわよね」
「あなたねえ、この景色を眺めて最初の言葉がそれ? だいたい忍び込むために忍び込むとか不毛すぎるわ。どこの蜘蛛男よ」
「まあ、花鶏の言うことも分からなくもないけどね。立ち入り禁止の学校の屋上とかって、やっぱり魅力的だもん。禁忌を踏んでの征服感というか、達成感というか……登山みたいな感じ?」
「そうそう。それがこんな高いビルともなれば、もうこっから見える範囲全部制圧した気分になるわ」
「つまり統治かなわぬ没落貴族の自慰ですか」
「茅場! 私の好みじゃないからって余裕こいてると智との3Pに巻き込むわよ!」
「僕関係ないよ!?」
「んー、じゃあこよりちゃんで」
「じゃあって何ですか! っていうかだからさりげなくパンツに手を突っ込むのやめてくださいよう!」
恐怖の大魔王セクハラー・スカイハイ。ローラースケートを脱いだこよりは花鶏の魔の手から自力で逃げることあたわず、屋上をあたふたと駆け巡ったのちにほうほうの体でるいの背後へと逃れた。そのまま「いい加減にしろエロ魔神」「なによ野生児」なんて、こよりそっちのけで揉め始めるのもいつものこと。仲介しようとしてあっさりと巻き込まれていく伊代の空気読めなさもいつも通りで、おそらくこの後はパラダイスフィンガーから伊代アッパーへのJFK並に安定感あるパターンが繰り広げられることだろう。
「……マヌケのやることはどこへ来ても一緒ですね」
いつの間にやら僕の腕にひっつきつつ、茜子が四人の様子を眺めて溜息。
「せっかくの眺めなのにね」
言って、僕は手すりの向こう、足元より遥かに下方に広がる世界へその目を向けた。
オフィス街を歩いていく豆粒よりも小さい人々。模型のような自動車に、プログラミングされているかのような交通ルール。スズメやカラスすら僕らよりずっと低い電線に止まっているのがせいぜいで、切りそろえられた並木を上から見ているその視点はまるで別世界にでも居るかのよう。
「うん、でも、せっかくの眺め『だから』、なのかな」
ここからは見えないけれど、住み慣れたあの溜まり場も高架下も、ここよりずっと人々に近い場所にある。あの雑踏に、大人の世界に、繋がらない人と人が暮らす呪われた世界に、あの溜まり場たちは距離を置きつつも、それでも陸続きで接している。
対してこの屋上はあまりに遠くてあまりに孤独だ。まるで大人たちの嘘が創り出す、区別のつかない曖昧さに背を向けて、生きていくと誓っているかのような。道行くあの人々と同じ世界には生きられないと諦めさせ、仮初めの自由と誇りを与えてくれるかのような。そんな魅力的な闇がここにはある。
けど。
僕らはもう、その魅力には騙されない。
確かに世界は呪われている。それでも僕らは友と誓った。正しさと過ち。愛情とごう慢。喜びと悲しみ。すべてが曖昧な大人の世界に背を向けず、僕らは精一杯に生き抜いていくと誓ったのだ。
花鶏の言った冗談。このビルの屋上に忍び込むことも、きっとかつての僕らならできただろう。伊代はセキュリティをハッキングできたし、あのこよりなら声紋認証くらいあっさりとやってのけてしまえそう。るいはそれこそ垂直な壁をクライミングできそうだったし、揉め事になったら心強かった花鶏、秘密の場所やパスワードをあっさり尋問できた茜子と、もはやできなかった理由がないと言ってもいいくらい。
でも、そうやって生きていくことが間違いだと気付いたからこそ、僕らは「大人の理屈」に従って今日はここまでやってきた。こよりと小夜里さんの信頼関係と、所有者の「許可」という社会のルール。僕らが生きていく呪われた世界の方法で、僕らはあの力と同じだけのことをやってみせたのだ。
「表の世界はお前たちにあげよう。その代わり、裏の世界は私たちが貰う」
「……? なにかの台詞、茜子?」
「いえ。カタギでない人がここからの光景を見たら、そう言うかと思ったので。げへへへと笑いながら言うとなお良」
そう言ってにやりと口を歪め、どこぞのマフィアのようにふんぞり返って人々を見下ろす真似をする茜子。
「そっか。……うん。もし多少力のある人がこの景色を見たら、そう錯覚してしまうのも無理はないのかもね」
「井の中の蛙ほど、ハタから見て滑稽なものはありません。そんな小者どもがマジもんに無様にやられていくサマを見るのは茜子さん的に超カタルシス」
げへへへ、と今度は違った意味で不気味な笑い。
僕らは既に知っている。痣を持ち合いながら、それでも裏切り己の正義に一時はついた央輝を。そして僕らが並外れた力を持って群れをなしたとしても、もっと大きなモノは幾らもあるということを。
「世界には、だから表も裏もありはしないんだよね。それゆえに、自分で作った井戸で世界を区分けするのは、僕らにはもう似合わない」
まるで下界から隔絶されたかのような、この高層ビル屋上。
それはでも、逃げ込むために深く掘られた井戸と結局なんら変わりはない。弱くて甘い「子供」たちが世界と自分とを分け隔てるのに必要な、大義名分という名の詭弁を与えてくれるというただそれだけの場所だ。世界の大きさにも気付かず、忘れただけなのに外の世界が消え去ったと錯覚して、いつの間にか自分たちを取り囲んでいた黒いものに飲み込まれるのをただ待ち続ける、そんな勘違いの塵芥のために設けられた仮初めの楽園。
そう、だから僕らに、この屋上はもう似合わない。
「そろそろ街へ戻ろう。みんなもきっと飽きた頃だろうから」
手すりから離れ、屋上の真ん中でぐだぐだやってる四人へと視線を移す。
いつも通り伊代アッパーを喰らった花鶏がばたんきゅーしていて、るいに構ってもらっているこよりとまんざらでもないるい、花鶏を仕留めてまったりとしている伊代。誰しもいつも通りで、そのことに僕は安堵すら覚えた。
だって、僕らは大海で生きていくのだから。井戸で偉ぶるような蛙だったら、きっとどのみち未来はない。
「マヌケのやることはどこへ来ても一緒ですね」
先ほどと同じ言葉を茜子がもう一度吐くのを聞いてから、僕は撤収を呼びかけるために四人の方へと向かったのだった。
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