2.みんなでお勉強
[The birds fly away from the flock...]
真っ昼間の市民図書館というのは多くの場合閑散としている。
雰囲気的には閉店間際のスーパーとかに近い。つまりBGMも終了し、あとは店内に残った客が帰るのを待つだけの状態の。棚の補充も明日回しで、レジ付近も忙しさはなく、外を走る救急車やパトカーのサイレンがその空間の音を全て持って行くようなあの感じ。
そして少し考えれば当然という気もするが、昼間の図書館利用者は暇を持て余したリタイア組と冷暖房狙いのアウト・オブ・社会の歯車な方々がぶっち切りで多い。そりゃもう数少ない利用客の9割がたはそうじゃないかってくらい。これぞ高齢者社会と格差社会の弊害。まあお年を召した方は家でパソコンってのも難しいのだろう。
そんな中で私服ならともかく学生服というのはこれ以上なく目立った。つい「どこの学校だろう」なんて視線を誰もが送ってしまうから。ましてやそれがうら若き美少女女子○生で、制服もしっかり着用となれば、視線を送ってしまう気持ちは非常によく分かる。残念ながら。
しかし見られる側としてはその気持ちを斟酌するわけには流石にいかない。そういうわけで――もっとも最大の理由はそれではないけれど――、閑散とした図書館の中でもさらに人の居ないスペースで僕らは集合することにしていた。それは以前から利用していたオカルトコーナーのすぐ近く。少し奥まったところに茜子とともに足を踏み入れる。
と。
「トモー!」
「わーん! センパイセンパイともセンパーイ!」
のっけから、いぬとうさぎが泣きついてきた。
なんとなく予想済みです。おおよしよし。きっと盲導犬や警察犬もびっくりの超絶指導を受けていたに違いない。
「ずいぶんかかったわね、あなたたち。まさか寄り道とかしてたんじゃないんでしょうね?」
「寄り道?」
してないはずだけど、と思い隣の茜子を見る。
呆れ顔で息を吐いていた。
「眼鏡マジ空気読め」
「ちょ、なによ。勉強が面倒だからってどこかで時間潰してたんじゃないの? これだけかかったのに」
「……?」
「そんなに予約特典付きパラダイスフィンガーをご所望ですか、このイケテナイザーは」
茜子は相変わらずの溜息。
……なんとなく読めた。やりとりを見る限り、茜子はだいぶ前にここを出ていて、かつ僕の出迎え中に寄り道をしていないというのも本当なのだろう。
となれば解は一つ。彼女は文句も言わず、僕が学園から出てくるのをあそこで待ち続けていてくれたということだ。それがたとえ勉強を回避する口実によるものだったとしても、思わず頬が緩んでしまう。
「えへへ。ありがとう、茜子」
「……びっち」
「え? え? なになに? どういうこと?」
どうもこうも。
とりあえず未だ納得いかなげにしている伊代は放っておいて、こよりとるいを席に押し戻す。それぞれの机の上にはそのチョイスからしておそらく伊代が与えたであろう参考書と、各々のミミズの飼育場が並んで存在していた。
一応、かろうじて一応だが、勉強していたという痕跡をそこから見て取れないこともない。意味を為す文言をこのミミズ用培地から探し出すのは、どことなく考古学の発掘調査に似ている気もするけど。ダウジングマシーンとか欲しい。
「でも、頑張ってる……よね?」
気分はゴットハンド。褒めなくちゃいけない的な意味で。
「そうですよー。でも伊代センパイは容赦ないッス」
「イヨ子ったら自分がちょっとできるからってねー。ひどいよねー、トモ。横暴だよ横暴ー」
「1時間かそこら問題を解かせただけじゃない。全っ然横暴なんかじゃないわよ!」
「残虐暴君ぼよよんメガネの圧政はマジ外道」
「あなたはそもそも最初の何分かしかやってないでしょ!」
「茜子さんは三分しか戦えないので。宇宙人ですから」
「どこのウル×ラ○ンか!」
「ベントラーベントラー。ワーレーワーレーハー」
「それむしろハサミ持ってる方だよね?」
「あーもう! そんなのはどっちだっていいのよ!」
「よくありません。ウル×ラ兄弟や怪獣の区別がつかないのは、プレステもサターンも3DOもまとめてファミコン呼ばわりする奴らもろとも氏んでください」
「う……どれも同じじゃないのよ」
出た、『力』を放棄以来のド・機械音痴。
っていうか3DOはさすがに僕だってよく知らない。発売当時、僕×歳だし。
「その反応。陰険姑息元貧乳は窓95で遊んでたクチですか」
「いや、よく分からないけど……っていうか『元』は貧乳にしかかからないんだ」
「あなたの陰険と姑息は現役ですから。つまりアクティブかつポジティブにナウ・オン・卑劣」
「ひどい言われよう……」
でも泣かない。だって男の子だもん。
「とーにーかーくっ! 宇宙人だろうがゲームの区別がつかなかろうが、姑息だろうが貧乳だろうが勉強はするのよ! それが学生の本分なんだから!」
「委員長属性きたこれ」
うへあ、と口に出して露骨に悪態をつく茜子。それに対してまた怒鳴ろうとした伊代を僕はなんとかなだめて、追い打ちをかけようとする茜子をおさえて、ものすごーく渋い表情のるいとこよりを励まして、ようやく各々を椅子へと座わせることに成功する。
「ほら、ね、分からなかったら教えてあげるから」
「うー」
「むー」
「……」
「はあ」
ジト目×3と溜息1つをさくっと無視して、僕はさっさと自分のノートと参考書を広げて。
伊代含めみんなもしょうがなく空気を読んだか、しばらくしてようやくぱらぱらと紙の擦れる音だけが聞こえるようになってくれた。
「飽きました」
「三分経ってないよ」
予測済みです。ちゃんと腕時計で計ってました。
ちなみに開始してからの時間は132、133,134……。茜子にしてはよく持った方……なのかなあ?
「昔より地球の大気が汚れているせいです。茜子さんのピンク色の肺が黒く染まる前に助けてください」
「はいはい、あなたの肺はどうか知らないけれど、ピンク色の脳の方なら助けてあげるわよ」
「圧政に加えて洗脳までする気ですか。しかし脳みそがピンクなのはあのセクハラーだけです。茜子さんの脳細胞は一点の曇りもない灰色ですから」
「自分で言うか」
つっこみ入れつつ、なんだかんだで茜子のノートをのぞき込んでいく伊代。自分から進んで荷物を背負いにいく熱きいいんちょ☆ハートは健在みたいだ。
ちなみに僕ではなく伊代が教えにいったのは、茜子が勉強している(はずの)教科が文系分野だからである。勉強会に先立ちそれぞれの学校の科目の具合なんかを聞いておいたのだけれど、やっぱりミッション系だけあって茜子はそっち方面のものが多かったのだ。僕はどちらかというと理系教科の方が得意なので、国語とか社会科は伊代に任せている。そのため必然的に茜子は伊代に教わることが多くなるわけだ。
「ここの意味が分かりません。敗北した劣等人種などは滅亡してしかるべきです」
「あのねえ。そういうわけにもいかないから、この年に条約を結んでるんじゃないの」
「なんというヘタレ。百歩譲っても、竹槍持って鍋かぶって本土決戦くらいしてほしいものです」
「どんだけ歪んだ戦争観よ……」
というか世界観がシビアすぎです。なんという焦土作戦。
でもまあ、かつてのるいなら竹槍でB29を落とすことも――
「ん? どうかした、トモ?」
「いや」
流石に無理か。
戦国時代なら皆元無双ができそうだけど。
「そうけ? まあいいや。あーついでについでに、この問題がちんぷんかんぷん」
「どれどれ」
ノートに書き込む手を止めて、僕もまた椅子から立ち上がる。
るいが解いているのは数学だった。一応学年は一コ上だけれど、るいが(ものすごーくオブラートに包んで言えば)数学が不得意なことも相まって、教えるのに何ら不都合はなかった。けどそれに対し僕が悲しんでるいが嬉しそうにするというのはどうなんだろう。
「ってこれ、解き方、上にある例題そのまんまだよ」
「じゃあ例題もわかんない」
「じゃあって、あのねえ」
「だいたいさー、こんなの解けたってお腹は膨れないんだよ? コンビニでお釣りを誤魔化されなければそれでいいじゃん」
「そう言わないの。将来的にはきっと役に立つから」
「るいねーさん、先のことなんて分かりません」
決めぜりふ。
ふふん、と胸まで張っちゃって。夏になっていっそう薄着になった胸暴君にそういうことをされると、ちょっと目のやり場に困らないでもない。
でもそうか。先のことなんて相変わらず分かりませんか。
「そうなのかあ、残念だなー。せっかくこの章が全部解けたら、ご褒美として帰りにこな屋亭の麻婆丼を奢ってあげようと思ったのに」
「……!」
ぴょこん、とるいの犬耳が跳ね上がる。
「ともセンパイともセンパイ、それはるいセンパイにだけッスか?」
「ん? んーん、頑張ったらこよりんにはみそラーメンの進呈を約束します」
「うっは、マジッスか! 俄然やる気がみなぎってきましたよ!」
耳聡く聞いていたこより。
こちらは長い耳をはりたて、言葉通り猛烈なスピードで参考書に目を通し始めた。
「トモちんトモちん、これ終わったらほんとに奢ってくれるの?」
「え? でもるいは――」
先のことなんて分からないんでしょ、と返そうとして言葉が止まった。
向けられたのはきらきらトーンを散りばめたような無垢な視線。あふれ出るわくわく感。瞳の純真さは飼い主に全幅の信頼を置いている犬のそれそのものだ。
わくわく。
どきどき。
そんな期待満点、これ以上なく嬉しそうなその表情に、僕は。
「……うん、もちろん。約束する」
「やたー! よし、そういうことならるいネーサンの本気を見せちゃうよ」
……うう。
自分の愚かさと醜さと甘さと弱さとその他もろもろに涙が出そう。色んな意味で闇属性の僕には、汚れを知らない聖属性攻撃がダメージ2倍で効果覿面すぎた。そこに自己嫌悪までもが合わさって更に倍率ドン。もう瀕死。
「――」
更にこより、るいと来たら当然、落ちこぼ連合の最後の一人からもじっと視線を向けられて。
「も、もちろん茜子にも、好きなラーメンを――」
「ビッチ」
「あう」
「こら、そういうこと言わないの。あなたたちのことを思って、奢ってくれるって言ってるんだから」
「そんなこと分かってます。八方美人の気安いさんはだからビッチだと言ってるんです」
「あうううう」
傷口にぐしぐしと塩を擦りこまれる気分。
「でもラーメンはいただきます。醤油・麺カタメ・揚げネギ味玉で」
「しっかりしてらっしゃる……」
そう言ってうなだれると、茜子は僕のそんな反応に満足したのか、ずいぶんと悪党っぽくニヤリと笑ってくれたのだった。
それからまた、しばらくはペンと紙の擦れる音だけが(ちょびっとだけ)続いていたものの。
「あうー……」
「みゅー……」
「ぴこんぴこんぴこんぴこん」
とうとう人参をぶらさげた三人からも限界を知らせる苦悶の声が出始めた。るいはなんかもう泣きそうで、こよりは目が×状態、茜子は口でぴこぴこと壊れた目覚ましのように無機質な言葉を繰り返している。対して伊代は三人の態度なぞどこ吹く風で黙々と問題集を解いているようだけれど、僕が見る限り、これは流石にもうリミットだ。
最後に解いていた数学の問題をQEDまで書き終えて、ぱったりとノートを閉じる。
「そろそろ休憩しようか?」
「お、おお!?」
「やった! こよりはさんせーです!」
「茜子さん的にその発言は神、いわゆるゴッドです。そこのブルマリアンにはオ○ーナを買う権利を与えましょう」
ばたばたばた、と僕の言葉で即座に本を閉じる三人組。
ぴりぴりしていた空気はお湯を注がれた乾燥ワカメのごとく一気に弛緩した。ゆるゆるふにゃふにゃ。
「ちょ、ちょっと! まだ二時間もやってないじゃない。どうせ休憩挟んだらそのまま遊んじゃうんだから、せめて三時間くらいは……」
「うひっ! 三時間もやったら死んじゃいますよう!?」
「そりゃイヨ子はそのくらいできるかもしれないけどさー、ウチらには逆立ちしたって無理だよね」
「今までサボってた分のツケを払うんだから、大変なのも当然でしょう。ねえ?」
「いや、三時間ぶっ続けは僕だって辛いよ。ここまで続いただけでも充分すぎるほどに立派だって」
「……はあ、この子たちには本当に甘いんだから、あなた」
伊代がいつもの通り眉をハの字にして溜息吐きつつ、なんだかんだで自分もそのノートを閉じた。
休憩時間とするのだから自分も休憩せねばならない、とかそんなところか。安息日ならぬ安息時間? 律儀というか、なんというか。
「それじゃ何か本でも探してこようかしら」
「うへー、すごいねイヨ子。私、もう本の背表紙すら読みたくないよ……」
「どうせその脂肪をどうこうすると謳っている本でしょう。探すだけムダだというのにこの巨乳は」
「い、いいじゃない。あなたに迷惑かけるわけじゃないんだし」
「そうですね。では、茜子さんが一つアドバイス。効率よく探すためにこの図書館の情報端末で調べることをオススメします」
「くっ……」
言葉詰まらせ睨む伊代と、両手を挙げて「ひょっひょっひょっ」と言いながらそれを受け流す茜子。
伊代のにらみつけるこうげき! 茜子にはこうかがないみたいだ……。
「いいわよ、私は歩いて探すから。その方が運動にもなるでしょ!」
「そうですね。あそこのパソコンは酸っぱすぎるので触らないほうがいいでしょう」
「よく言うわ。あなたの方がよっぽどキツネっぽいじゃないの」
「おっと、陰険姑息元女狐の悪口はそこまでです」
「僕っ!?」
巻き込まれた。
いやまあ、確かに人を化かしてたけども。でもでも、ちゃんとブドウは食べられたわけだし。
僕がしみったれた自己弁護に走り始めると、茜子はにやっと笑ってトドメの一言。
「ちなみに狐には、英語で『性的魅力のある女性』という意味もあります」
「あうう」
……アイデンティティクライシス、現在進行継続中っぽい。
形はどうあれとりあえずの休憩、伊代に倣って僕も図書館の本棚を回ってみることにした。
割合綺麗な図書館。靴音を隠す、広く敷き詰められた赤い絨毯はメイド・オブ・市民の血税。淀んだ空気もどことなく公務員的で実によろしい。書庫の本はタイトルと装丁に命を懸けたようなおカタい文学書から、果ては写真集、ライトノベルなんかまで様々だった。聞くところによれば漫画を置いている図書館もあるみたいだけど、あいにくここにはないらしく。
図書館をご利用なさっている市民の皆様方は今日も元気に椅子に座っておのおの読書に耽っている。分類するとさっきも言ったようなテンプレ通りの二種類になる。公園に住んでそうで労働による税金を払っているのか疑わしい人と、昔は税金払ってたけど今は保険料を食い尽くそうとしている人。残りのその他数パーセントは自営業とかモラトリアムとかそういう人たちだろう。
そんな中を僕が歩く。誰もがこちらを振り返る。
南聡の女学生で人目を引く美少女に感嘆している。
南聡の女学生――――僕のことだ。
人目をひく美少女――――僕のことだ。
「はぅ……っ」
天丼大盛り。
やっぱりいつまで経っても慣れやしない。いや、慣れちゃっても困るんだけど。
それともこれに耐えていられるのがダメなのだろうか。耐えられないほどの恥辱であれば、こんな服さっさと脱ぎ捨てて――――とはやっぱりならないか。だってそんなだったら、今僕はこうして生きていない。
ままならない。
慣れないことも、耐えられることも。
実はちょっぴり楽しかったり――?
「……あううっ」
考えなかったことにする。
そのまま僕は適当に本を見繕ってから、再びみんながのんびりしている机の方へ。背筋垂直、時速3キロは破れることなき鉄壁ルール。本の存在も相まってどこからどう見ても優等生だ。その重さが僕の薄幸(っぽ)さに拍車をかけてもいる。思わずジェントルメンが「お嬢さん、荷物をお持ちいたしましょうか?」と声をかけてきそうなくらい。
「あ、トモ戻ってきたよ」
そうして角を曲がって到着。飼い主を迎える犬のように反応してくれたのはもちろんるいちゃんだった。よしよし。隣ではこよりがぐてーっとしていて、茜子はいつも通り宇宙と交信している。伊代は先に戻ってきていたらしいけど、しかし僕をじーっと睨みつけてきた。
理由はきっと、その隣に居る新たな登場人物たちのせい。
視線を向ければ、相手も気付いて。
「ちょっと智、頼み事をしておいて出迎え無しはひどいんじゃない? お詫びとしてパンツ頂戴」
のっけから全開すぎる。
「そこのエロ魔神! トモに手を出したら、レズじゃなくてただの見境なしじゃんか。アカネに呪い殺されても知らないよ」
「はあ? 美しいものを愛でるのに見境なんて必要ないでしょう。それに女だったから智が良かったんじゃなくて、智だから男でも関係ないのよ。まあ、あんたみたいな胸から腹まで大雑把な人間には分からないでしょうけれど?」
「うっさいな。舌がガサツなのよりましだろー、この両刀セロリ」
「意味不明だけど、あんたが馬鹿なりに馬鹿にしようとしてるのは分かるわ。脳みそまで胃袋の分際で……!」
「なんだとー!」
「なによ!」
「――――っ!」
「――――っ!」
そして始まる掴み合い。
……まあ、この二人はあれで正常みたいなもんだし、どうせ伊代アッパーで収まるだろうから放っておくとして。
「さて」
僕がここに戻ってきてからずーっと黙っていた人間に目を向ける。
そう。来ていたのは花鶏だけじゃなかった。まるで「この人たちとは他人です」とでも言いたげに僕らからやや離れて、カチカチとライターを開閉している、花鶏が街中を探し回って連れてきてくれたその人物。
「来てくれたんだ、央輝」
笑いかけると、パチン、とライターを不機嫌そうに閉じて。
「ちっ……。そうだな、ああそうだ。失念していたあたしがバカだったよ。お前はこういう奴だったな」
「なんのことかな?」
「あたしはな、呪いのその後に関して何か重大な進展があったと聞かされたから、こんな所に来たんだ! それが何だ、結局バカがバカやってるだけじゃないか……!」
「うん、そうだね」
笑顔で肯定。
央輝は僕の様子をどう取ったか、ライターをスカートのポケットに突っ込んで、壁に預けていた身体をぐっと持ち上げた。そのまま以前は帽子に隠れていたその目で僕をじとっと睨みつつ、
「ふん。重大な進展、だなんて言葉に釣られたあたしも大概だったな。付き合ってられるか」
「あれあれ? じゃあいいの、『重大な進展』について聞かなくて?」
「はん。そんなものがあるならお前はあたしが希望するしないに関わらず事実をあたしに伝えるだろうし、そうじゃないならそんなものはないか、あったとしても大したことはないんだろうさ」
「おおっ、すごいね、央輝。そこまで信頼してくれてるんだ」
「ああ?」
「嬉しいな」
央輝は「何を言っているんだこいつは」な表情から一転、すぐさま何かを考えるように視線を落とし、次いでわなわなと震え始めた。
うん。やっぱり嬉しいな、こういうのは。
「あ、あたしは別に――」
「ただ、大したことない、っていうのは心外だから言っておくよ。『重大な進展』について」
「あ? あ、ああ……何だ、本当にあったのか?」
「うん。央輝が来てくれた」
「…………は?」
ハト豆顔。
「だから、央輝がこうして僕たちのところにまた来てくれたこと。呪いから脱した後の僕らにとっては、とってもとっても大事な、かつ重大な進展だと思わない?」
「……」
「ね?」
「…………」
金魚のように口をぱくぱく。
そのまま何かを言おうとしてけど言わなくてを数度繰り返して、結局央輝の口から吐き出されたのは様々な思いを押し込めたであろう大きな大きな溜息だった。身体中の力が抜けたか、再びその背を図書館の壁へと戻す。
「本当に貴様は、いつもいつも……」
「えへへ。だって、こうしないと央輝、来てくれないから」
「……」
央輝、これにはスルー。
「ほら、じゃあ、今度ご飯奢ってあげるから」
「んなっ! あたしをあの筋肉バカと同列に扱うな!」
「でも、あんまりいいもの食べてないんでしょ? 最近駅前のファミレスが力入れてて、結構美味しいメニューもできたんだ」
「ほう。――……って、そうじゃない! 味の問題じゃないだろうが!」
「いまちょっと心動いたでしょ」
「〜〜っ!」
かつては数多のカタギじゃない人を従えたその目だが、今は残念ながら異形の力も、それどころか相手を怯えさせる鋭さすら持っていない。それが狼の牙自体が丸くなってしまったせいなのか、狼が本来単なる犬であることを僕が知っているせいなのかは、ちょっと判別がつかないけれど。
「央輝。群れへようこそ、とは言わない。僕らはもう同盟を解体して、あの呪いも克服して、既に群れである必要がなくなったんだから。呪いに対抗するという目的のために、お互いを守り、手を取り合った群れ。それに僕らはとうに別れを告げたんだ」
「で、その結果が図書館での馴れ合いか? どう見てもガキの集まりだが」
「うん。でも、それがきっと正しい姿なんだと思う。命がけの同盟を組んで、表面上の馴れ合いをして。それはやっぱり、変でしょ? だって、僕らはまだ学生なんだから」
「……ぬるま湯のガキの理屈だ」
「知ってる。それでも僕らは、そういった時間を過ごすことすらできなかった。必要なんだよ、やっぱりさ。そういう経験って。少なくとも僕らは、たとえ呪いがなくなったとしても――ううん、呪いがなくなったからこそ、かつてのようには生きていけないんだから」
「それでお勉強会ってわけか?」
「うん、まあね。るいだって、まだまだ間に合うと思うし」
「ハッ、それで間に合わないあたしは後から召集することにしたってわけだ。よく分かってるじゃないか」
別段嫌そうな感情を見せるでもなく、央輝は壁に背を預けたままライターを取り出す。図書館なので火はつけず、カチカチと鳴らすだけ。クセなのだろう。
「僕は優等生だから。優等生のメリットもデメリットも、わりと分かってるつもり」
「お前が一般論に含まれるタマか?」
「まあ、そうなんだけど。でもただの優等生だったら、こうして央輝と喋ってないよ?」
「ふん」
いつかのことを思いだし、央輝が愉快げに口元を歪める。ちょっとだけ昔の央輝に戻ったような、それでいてどこか決定的に違うような。
……ああ、そうか。
「ないんだ」
ようやく意識し、改めて央輝の格好を見る。華奢な体付きは見るからに女の子のそれで、受ける印象はかつてとは比べるべくもなかった。大きな帽子は既になく、髪を結い上げた頭はどこか撫でてあげたくなるような可愛らしさ。帽子のツバに隠れ気味だった顔も今は全てを晒していて、目つきの鋭さも怖さというより反抗期の幼さを感じさせるようになっている。首筋も結い上げた髪のせいで随分と強調されてしまっているし、そもそも全身を覆っていたコートがないせいでにじみ出ていたカリスマ性もどこかに吹っ飛んでしまっていた。
線の細い肉体、着崩したワイシャツ、るいや伊代のそれと同じくらい短いミニスカート、白い太腿と対照的に真っ黒なニーソックスとそれを留めるガーターベルト。
どこからどう見てもちょいワル美少女××生。しかも強気系だから、校内の女子に人気とかありそうな。
「何をジロジロと。だいたい無いって、何が無いんだ」
「ああ、うん。帽子とコートがないだけで、ずいぶん可愛くなるなって」
「――っ! バカか、テメエは! そもそもお前が着るなと言ったんだろうが!」
「いやまあ、そうなんだけど」
そう。
彼女の帽子とコート。脱がしたのは僕なのだ。
もちろん脱がしたといってもアトリン的なアレではなく。夏になったのだし、暑苦しい格好をする必要はもうないんじゃないかと勧めただけのこと。
渋々と受け入れた感じだった央輝、それでも律儀に言ったことを守ってくれているあたりはとっても彼女らしいというか。
「確かにあれを脱ぐのが央輝の生き方にとってプラスなのかどうかは分からない。けど、やっぱり僕らと一緒にいるときくらいは脱いでてくれると嬉しいな。僕らは、その格好の央輝と接していたいと思うんだ」
「……知るか。お前に服装の指図を受ける筋合いはない」
ふん、と目を逸らして心底下らなそうに鼻を鳴らす央輝。なぜかカチカチとやっていたライターも再びポケットへと戻して、それとともに帽子をかぶっていたならツバで目元が隠れるくらいにまでその視線を落とす。
さすがに頬を染めるような真似をする央輝ではないけれど。
「何がおかしい?」
「んーん、おかしくなんてないよ。ただ、央輝を呼んできてもらってやっぱり良かったなって」
「クソッ……。やはり来るんじゃなかったか」
「口ではそう言いつつ、初恋の相手にそう言われて内心穏やかでないちびちびヤンキーかっこツンデレ編かっことじ、なのであった」
「――! お前、いつから……!」
「そうですね、『か、勘違いしないでよね、あんたの為に来たわけじゃないんだからっ』のあたりからでしょうか」
「言ってないだろ、そんなこと!」
「しー。図書館ではおーしーずーかーにー」
「〜〜……っ!」
地団駄を踏みかねないくらいにわなわなと震える央輝。対して、割り込んできた茜子はそんな央輝を見てなお「ツリ目ツンデレ帽子ナシはさっさとツインテールにすべきです。あっちのろりりんとは髪型が一緒でもキャラがかぶらないのでマジおすすめ」とか言ってらっしゃる。
相変わらず遠慮も容赦も地平線の彼方。まあ、昔ですらからかっていた茜子だ、コートを脱いだ今の央輝なんてきっと猫より御しやすいことだろう。なんか央輝、どことなく猫っぽいところもあるし。……本人には口が裂けても言えないけど。
「それよりそこの姑息元貧乳浮気型」
「もしかしなくても僕のことだよね」
「はい。人が目を離してるとすぐこれじゃあ心配にもなります。……ともかく、そろそろ戦略的撤退の頃合いかと存じ上げ奉り候」
「帰るってこと? もう?」
「そうです。兵糧攻めの果てに待っているのは飢え死にだけでありをりはべりいまそかり」
何のことかと思い、早速今日の勉強内容を大いに間違えてる茜子の向こうに視線をやる。
そこにはいつも通りこよりを襲おうとしてる花鶏と、花鶏から逃げまどうこより、その騒々しさにぷんすかしている伊代。
そして。
「あー……」
腹を空かせた犬が一匹、うつ伏せになって事切れていた。
「もうそんな時間かあ」
「あの野生児、筋肉だけじゃなく滅多に使わない脳みそまで燃費効率最悪のようです。もうバイオエタノール飲ませるしかありません」
「とうもろこしなら、そのまま食べさせた方がいいと思うけど」
なんて言いつつ、時計を見れば確かに結構な時間になっていた。夕飯にはまだちょっと早いが、逆に言えばるいがお腹を減らすには充分な時間でもある。
「んー」
人数は七人。
伊代と花鶏はちょっとずつ出してくれるとして……うん。茜子が無茶苦茶言わなければ、充分まかなえる範疇だろう。
「それじゃ、みんなで夕飯でも食べに行こうか?」
「配給きたー」
「もちろん央輝もね」
「どうせ断っても力ずくで引っ張っていくつもりだろ? くそっ」
「なんという照れ隠し。このばればれっぷりは間違いなくツンデレ」
「意味は分からんが、お前がろくでもないことを言っているというのは分かるぞ」
「なんとっ! この茜子さん以外にもエスパーが居たとは! 侮りがたしコート女コート無しバージョン」
「……」
央輝はツッコミを入れる気力すら失せたか、はあ、と大きく溜息を吐いてみせたのみ。染まっていってるなあ、とつくづく。
「まあ、じゃあそういうことで。ねえみんなー! いま茜子たちと話してたんだけど、そろそろ――」
るいたちの方へ、そろそろ帰ることと、帰りにファミレスへ寄っていくことを伝えに行く。
それにるいが真っ先に同調し、伊代が理解を示し、こよりは必死にそっちへ話を向けようとし、花鶏が渋々受け入れて。
そうして僕らは図書館を後にし、今日一日の〆にファミレスへと向かったのだった。
で。
「もうしばらくはあのお店行けないよ……」
お腹も膨れた帰り道。
ある意味では予想通りすぎた先ほどまでの騒々しさを回顧しつつ、わざとしみじみと元凶その1に言ってみせる。
「茜子さんのせいじゃありません。あの大魔王セクハラーが酒も入ってないのに大暴れしたのが原因です」
「でも焚き付けたのはアカネだったよね」
「それを伊代が収拾しようとして」
「どっかんばっこん、ですね。あまりのテンプレっぷりに茜子さんの目にも涙」
「……どいつもこいつもバカ揃いだ」
呆れ返った風に言う央輝。もちろんキレた伊代を黙らせようとして場を更なる混沌へ落とし込んだのは彼女自身なのだけれど、それは言わないでおこうと思う。
さて。
なかば(僕の心情的に)逃げるような形でファミレスを後にした僕らは、そのまま帰宅の途につくことにした。夏とはいえそろそろ暗くなる時間帯。女の子が繁華街をうろうろしていていいはずがない。
ファミレスは駅前にあるので、花鶏、こより、伊代の三人とはファミレス近くの分かれ道で既に別れている(伊代とこよりが襲われないかがちょっと心配だったけど)。だからいまこうして目抜き通りを僕のマンションの方面へ向かって一緒に歩いているのは、僕と、一緒に暮らしている茜子と、家無き子のその他二名。わりと珍しい組み合わせだろう。
家無しの二人がどこに行く気なのかは知らないけれど、うちに来るつもりなら屋根を貸すくらいはなんてことはない。茜子もさすがに拒否はしないだろうし、引け目を感じるようでもお風呂くらいには入らせてあげたいとは思っている。二人とも、しっかり女の子なんだから。
まあるいはともかく央輝はうちに来るよう提案すればすぐ別れてどっか行ってしまいそうなので、そんな考えは口には出さないでおく。なし崩し的にうちに押し込められればそれが最良かな、とか。
「そういえばそこのコスプレ女私服版」
「……」
僕の海より深い思慮を吹っ飛ばす茜子さんの勢いに、央輝がさっさと帰らないことを祈るばかりだ。
「あなたの呪いは日陰者の呪いでしたが、今みたいな夕暮れ時もアウトだったんでしょうか」
「ちっ、コスプレだの日陰者だの、相変わらずナメた奴だな」
「むしろアカネのがじめじめした所とかに居そうだよね」
「……路地裏のキノコ栽培を生業にしていた茜子さんも、さすがに廃墟暮らしの野生児に言われたくありません」
「なんだよー。元は人が住んでた場所なんだから、結構便利だっつーの」
ふてくされつつも廃墟暮らしはやっぱり否定しないあたり、るいすぎる。
っていうか路地裏と廃墟に五十歩も百歩もないだろう。
「でもこの時間帯、お日様の光は真横から入ってくるもんね。真っ昼間より大変だったんじゃない?」
「さてな。だいたい時間絡みで言えば、そこの奴も人通りが多いいま時分は苦手だったろうが」
「夜だろうが人通りが少なかろうが、パンをくわえてぶつかってくる偽美少女は居ましたけどね」
「あうう」
人混みを器用に避けつつ、僕の手を握りながらじろっとそのダウナー分満載な瞳を向けてくれる茜子さん。
いやでもあれは、まあ結果から言うと違ったけれど、僕の方だって呪いを踏むかもしれなかったわけだし。おあいこだろう。
「るいネーサンとしては、この時間は稼ぎどきだったけどね」
「そういえば今ごろだったっけ」
「そそ。やってたら、そろそろ終わる時間かな」
「ああ、前に言ってたやつか? ……はん。素人の演奏に飯を食えるだけの金をくれるとは、マヌケだらけかこの国は」
ビルの合間から差し込む夕日に照らされた央輝が、侮蔑の視線を辺りにまき散らしながら吐き捨てる。
まあ泥水を飲んで、ドブネズミで飢えを凌いだと言っていた央輝だ。その価値観からすると、確かに異常に思うのも無理なからぬことではある。
でも、それはやっぱりどこに信頼を置くかという、ただそれだけの問題だったんじゃないかとも思ってしまう。だから央輝は裏の社会に身を投じて、そうじゃないからるいは道端で演奏を始めた。どちらが正しいとか、そういう話では決してない。
「そうだ。ねえ、るい。聞きたいことがあったんだけど」
「んに?」
しかし二人があの「力」の恩恵を受けていたこそ成功できた、というのは疑いようのない事実だ。
央輝は闇の世界でのし上がるのにあの目の力が必要だったし、るいはあの筋力があったからこそ指で力強くベースを弾くことが出来た。央輝はどうか分からないけれど、少なくともるいはその力と裏腹の「呪い」があんな生活を送る原因になったわけだから、まあ、確かに伊代的に言えばフェアだったのかもしれない。
それでもやっぱり、今になっても僕はこう思わずには居られなかったわけで。
「ベースに対する未練とかって、ないの?」
「んー、もう弾きたくないのかってこと?」
「うん、まあそんな感じ。地面に埋めてまで大切に保管してたのに」
「……地面に埋めるのは、大切なものに対する態度なのか?」
「その疑問については、ちびちびヤンキーに同意せざるを得ません」
珍しく意見が一致したようである央輝と茜子の言うことはとりあえず放っておくとして。
るいはしばらく「う〜ん」と考えてたけど、やがていつものようにその表情を崩し、ずいぶんと楽しげに言った。
「よくわかんないや」
「わかんない?」
「私って飽きっぽいんだ。ただでさえ物覚え悪いのにこんなんだから、続いた趣味ってなくて。ベースは唯一続いてたんだけど……」
「やりたいなら、無理にやめることはないと思うよ」
常々思っていたことを伝えてみる。
あのベース演奏が「力」のおかげであるものだったにせよ、だからといって力とともにそれを好きだった気持ちまで放棄する必要はやはりないと思うのだ、僕は。
確かに技術は落ちるだろう。あの力強い音はもう二度と出せない。それだけで食っていくのは不可能となるのは間違いない。
でも、それでも、あれがるいの唯一続いた「趣味」ならば、その嗜好自体は誰に否定できるものではないはずではないのか。きっかけはあの力だったにしろ、金銭の必要に迫られてだったにしろ、その成功の要因が異質なものだったというただそれだけの理由で、好きな物を諦める必要なんてやっぱり絶対ありはしないと、僕は思う。
だから昔みたいに上手に演奏はできないかもしれないけど、それでもいいんだ。
そう言おうとして、でも先に口を開いたのはるいだった。
「そっか、トモって、なかったもんね」
「なかった?」
「むしろありますが?」
「茜子さん自重してください……」
冗談に対してるいはちょっとだけ微笑んで。
「『力』のこと。……ねえトモ。こよりは自転車を欲しがってたけど、それってローラースケートが履けなくなったからだよね?」
「えーと、うん、そうだろうね。不便不便って言ってたし」
「こよりはローラースケートでくるくる回るの、結構好きだったはずじゃんか。それでもこれからはそれの練習じゃなくて、自転車に乗る方を練習したいって言ってる」
「あ……」
それって、つまり。
「トモは難しく考えすぎだよ。私らはそんなに深く考えてないもん。できたから面白かった、できなくなったからやめる。るいネーサン、そのくらいには単純ですから」
「こやつ、自分で言いおった……!」
「おー、言いますよ。刹那的な生き方はそうそう変わらないもんね」
えっへん、とその大きな胸を張るるい。
「だから私はこれでいいし、きっとこよりもそうだと思う。未練とか、頑張ったら負けだとか、ずるしてた罰だとか、そんなの考えたこともない。これからやりたいことができたら、それが私の趣味になる。それだけだよ」
「……るいちゃん、すごい」
思わずそう言葉が漏れる。
「そうけ? そうけ? えへへ、トモに褒められちゃった」
「かのソクラテスの名言、無知の恥ってやつですね」
「そー、それそれ! 無知の恥! ……って、うむむ? アカネ、何か違くない?」
明るく、何を気にした風でもないるい。
その実やっぱり彼女は何も考えてなくて、だからこそ僕なんかよりずっと凄いんだと本気で思えてしまう。
……まあ、まただからこそ勉強とかみたく、手を焼いてあげなきゃいけない領域もあるんだけど。それが生きていくのに必要なことを、るいはやっぱり知らないから。
つまりこういうことになる。
るいが知っているのは、呪われた過去とお別れする方法。
僕が知っているのは、この呪われた世界で生きていく手段。
だからこれは、いまだに呪いの話なのだ。
「ったく、これ以上馬鹿に付き合ってられるか。おい、あたしはここで帰るぞ」
「うん? あー」
央輝の突然の申し出。
気付いて顔を上げれば、大通りはもうその終点を迎えていた。ここから先は僕のマンションに続く閑静な住宅街になる。しっかり道は確認していたかと内心ちょっぴりがっかり。
「そんじゃ私もここでお別れかな。晩ご飯ありがとね、トモ」
「いいって。僕から言いだしたんだし。二人とももう普通の女の子なんだから、帰りは気を付けてね」
「誰に言ってる」
央輝が薄く笑う。るいも「心配ないよ」とにこっと笑って。
「それじゃゆんゆん娘もるいるい女も、生きていればまた会いましょう。30ベルスタ後くらいに」
茜子がぐっと僕の手を引き始める。
「二人とも、それじゃまた。ほんと、気を付けてね」
僕も茜子につられるように歩き出して。
「もう下らない用事のために呼ぶんじゃないぞ。言葉遊びもごめんだからな」
また会うこと自体には異論を口にせず、央輝が踵を返し。
最後にるいが、とっても嬉しそうに、誇らしそうに、楽しそうに、大きく手を振りながら、言う。
「央輝、アカネ、トモ! また今度ねー!」
その言葉に僕は頷きかえし。
しっかりと再会を約束して、僕らは解散したのだった。
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