[An episode after true story]
1.開会


 文化祭である。
 九月十三日。好天に恵まれた幸運を噛みしめる暇もなく、俺、いや、正確に言えば俺たちは、朝からずっと学院内を東へ西へと駆けずり回っていた。その様はまさしく東奔西走スクールライフ。理由は当然、文化祭開会直前にも関わらずひっきりなしに舞い込んでくる雑事の数々を処理するためである。グラウンドの運動部の出し物の様子を見たと思えば、すぐさま本敷地の屋台へ折り返すなんてことも一度や二度ではない。俺はいつから階段の上り下りで足腰を鍛えるスポーツマンになったのか、そんな疑念すら覚えてしまう。
 だがそれすらも心地良いと思えるのは、やはりそれがやりがいのある仕事だからだろう。半年ほど前までの俺では考えられなかったこの心境。かつての俺はなんて勿体ないことをしていたんだと今なら思えるし、そしてまたそう思えるほどに今の俺は充実していた。だから階段の上り下りくらいは、そんな日常のスパイス程度で、別に今の俺にとっては何てことはないのだ。
 ……いやごめん、ちょっと嘘ついた。
「ありがとうございます、支倉先輩」
「いや、間に合って良かったです。あと三十分くらいしたら校内放送で会長の開会宣言がありますので、そうしたら販売を開始してください」
「はい!」
 そうして何度目かの階段を上った先、本敷地の屋台の機材搬入を手伝い終えたときには既に開会三十分前だった。そろそろ開会式の準備もせねばならない時間であるため、これ以上の問題処理は開会後となると判断。ひとまず機材搬入が終わったことを告げるために携帯を取り出して。
 ぴっぴっと電話帳を呼び出し、決定ボタン。この数日、かなりの回数かけている番号だ。控えている相手はコール1回で出てきた。
『はい、こちら文化祭実行委員会の本部です』
「東儀先輩。噴水前の機材搬入、終わりました。もうそろそろ会長も動けなくなるでしょうし、俺もグラウンド向かいますか?」
『ああ、支倉か。丁度良いタイミングだ。開会式は瑛里華と紅瀬に任せる。かわりに、悪いが正門に行ってくれ。客人だ』
「あ、分かりました。どこの方ですか?」
 開会前から来るとはずいぶんと気合が入ったお客さんだな、と思いつつ東儀先輩へと問う。以前から地元商工会の人や理事だのなんだのが来るとは聞かされていたし、その案内が生徒会の役割だとも聞いている。特に驚きはしない。できれば優しい人がいいなあ、会長のように人望があればなあ、せめて悪い印象は与えないようにしないとなあ、などなど思いを巡らせていたのだが。
 しかし、気構えは予想外の方向に外れて。
『いや、実はな、早めに来るとは聞いていたんだが……』
 そこで一度言葉を句切り、
『……伽耶様がもう到着したらしい。守衛から連絡が入った。どうせ始まるまで時間もない、生徒会の仕事が入るまで案内をしてさしあげてやってくれないか』
 ちょっとばかし呆れたような、しかしどこか嬉しさの混じったような声で、東儀先輩はそう言った。



「い、いや、あたしはこんな早く来るつもりはなかったんだ。しかしな、週末だというのに瑛里華も伊織も、いやまあ伊織はどうでもいいが、早々に家を出てしまうし、となれば母であるあたしが家でのんびりしておるわけにもいくまい? だからあたしはこうして早くに来たのであってな、お前が思っているように決して気がはやったというわけではなくてだな」
「分かりましたってば。でも、副会長喜びますよ?」
「……お前、あたしの話をちっとも信用してないだろう?」
「いやいや」
 頬の緩みを止められない俺の表情を見て、睨むようにしていたその顔がぷいっと明後日の方向を向いた。長い髪がそれに追従してふわりと舞う。
 正門に向かって着いた先に居たのは、守衛さんの隣でぶすっとふてくされた表情を作っている、いつもの和服姿の伽耶さんだった。守衛さんもその態度に困惑気味で、俺の姿を見た途端に安堵の表情へと変わったあたり、心中お察ししますといったところ。手短に挨拶しつつ守衛さんから伽耶さんを引き取って――というと怒るだろうが、他に表現方法が見当たらない――、まだ開会前の正門からの通りを歩き始めた途端に、伽耶さんは顔を赤くして冒頭の弁明を始めたのだ。
 閉じた扇をぶらぶらとさせつつ、その弁明はまだ続く。
「だいたい、なんだあの守衛は。人が瑛里華の母だと言っているのに、何度も何度も確認して。それにお前も。もっと早く来んか。招待しておいて門前で待たせるとは、礼儀がなっておらん」
 ぴっと扇で俺の顔を指し示しながら、まるで従者に説教するかのごとくそう言う伽耶さん。
 御簾で隠れたまま人を迎えていた人が言う台詞か、と思いつつ、
「でも、来るなら来るってあらかじめメールで連絡してくれれば良かったじゃないですか。そうすれば時間を見計らって、先に来て待ってましたけど」
「む」
 言うと、伽耶さんはぴくっとその身体を一瞬停止させた。からころとなる下駄のリズムも一寸狂い、頬をさす朱は少しばかりその色が濃くなったように感じて。
 ……ははーん?
「さては、メール、まだ使いこなせてないんですね?」
「――ッ!」
 びくっと伽耶さんの肩が跳ねる。
 そう、実は誕生日プレゼントと称して、伽耶さんには俺と瑛里華から携帯電話を送らせてもらっていたのだ。伽耶さんたっての願いで紅瀬さんにも一緒に送ったのだが、破滅的な機械音痴である紅瀬さん同様、伽耶さんもまたそっち方面には相当疎かった。まあ、二百五十年も前にはデジタル機器などあるはずもないから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
 副会長は教える気満々だったはずなのだが、そううまくはいかないということらしい。
「折角携帯買ったんですから、どんどん使った方がいいですよ。通話だけじゃ不便ですし、やっぱりメールもできた方が――」
「ば、馬鹿を言うな! 桐葉よりはできる! ……はずだ」
 人それを五十歩百歩と言う。
 この故事くらいは、二百五十年前にもあったろうに。
「ともかく、メールの件はお前に言われる筋合いではない。あたしがいいと言ったらいいのだ。なに、技術などというものは必要ならば自然と身につく。年月を経ようと身につかなかったものは、それすなわち不要ということに他ならん。分かるか?」
 腕組みをし、ふん、と鼻を鳴らして伽耶さんが言う。これが子どもであればできないことの言い訳なのだが、二百五十年も生きている人の台詞となるとその重みはまるで違って聞こえるから不思議である。信じてしまえそうになるから。
 もちろんそれも一面的には真実であろうが、しかし。
「じゃあつまり、やっぱり今は使えな――あいたっ!?」
 ぱこん、と小気味良い音は俺の頭蓋骨から。完全に反応できない速度で放たれた打撃は、伽耶さんが持つ扇によるもの。そんなところで吸血鬼の超人ぶりを発揮しないでいただきたい。
 伽耶さんは俺を叩いた体勢から、くるっと反転し、再びからころと下駄を鳴らして歩き始めて。
「ほれ、メールができたところで、懸想した相手の母親すら案内できないようでは人としての程度が知れよう。さっさとあたしを瑛里華のところへ連れていかんか」
「それもそうですね。副会長にメールも送れませんし」
 わざと口を滑らせる。伽耶さんの目がかつてのように細まった。ちょっと怖い。
「……お前、いつかその血を吸ってやるから、文字通り首を洗って待っていよ。味見したぶんでは、なかなか上物だったからな」
「スミマセンオカアサマ」
「ふん。謝るくらいなら最初から言うなというのだ」
 それじゃ面白くないだろう、とナチュラルに思ってしまうあたり、俺も相当会長に毒されたらしい。
 とはいえ一応形だけでも謝って、てこてこと歩く伽耶さんの隣で正門から新敷地の方へと歩いていく。伽耶さんは背が低いせいもあるだろうが、どうにも昔の貴族のようにその歩調はのんびりゆっくり。小さいながら、その風貌と相まって、なんというか大物感が漂う辺りは流石と言ったところか。たとえ和服がなくとも、その仕草だけで、育ちの良い娘さん、くらいには見えるだろう。
 しかも石畳の上を下駄で歩いているためそのからころという音はかなり大きくもなっていて、開会直前でそう騒がしくはないこの学院内、生徒たちがちらちらとこちらを見てきているのも分かる。
 誰しも不思議そうな顔。俺が一緒に居る以上、外部の客人であろうことまでは分かるのだろうが、その先がサッパリなのだろう。
 そりゃそうだ。この伽耶さんの姿を見て、地元の権力者かつ副会長の母親だなどと看破できるようなやつが居ようはずもない。
「あの、あんまり気にしないでくださいね? たぶん物珍しさですから」
「ん? ああ、視線か? なに、あたしの風貌が人目を引くものだという自覚はある。そのくらいで気分を害したりはせん。それに、そう悪い視線でもないしな」
 平然と言う。表情を見ても本当に何とも思っていないようで、物珍しさから視線はあちこち動いているものの、そこに気まずさや不機嫌さといったものは見て取れはしない。
 よくもまあここまで社会常識を覚えたものだと思う。ちょっと前まではいつ喧嘩するものかと冷や冷やするところだったのに。
「な、なんだ、そんなにじろじろと。いくら自分で建てたと言えど、そう覚えているものでもない。それに以前来たときと随分雰囲気が違うと思ってな」
「いや、別にそんな風に思って見てたわけじゃないですけど」
「…………」
 墓穴。伽耶さんは再び頬を少し赤くして、ちょっと不機嫌さを作った顔ですたすたと歩く速度を速めてしまった。まあそれでもやっと人並みになったかどうか、っていう程度だが。
 しかしそれでも珍しさは、あるいは祭の空気に対する興味は抑えきれないか、一歩下がったところから見るその頭はくるくると忙しなく動いている。指摘するだけ野暮というもの。それに、楽しんでもらうのは俺にとっても嬉しいことには違いない。まるで初めて遊園地に来た子どものようなそわそわっぷりだ。可愛い。
「開会したら一斉に販売開始です。あとでもう一度、副会長と一緒に来たらどうですか?」
「む? う、うむ、まあ、そうだな。来てやらんでもないくらいには、なかなかのものが揃っているようだ」
 進言に、意外にも素直に頷く伽耶さん。よほど気に入ったと見える。
 あとでもう一度来ると決めたからか、視線の揺れ幅は多少小さくなって、俺たちはそのまま教室棟をくぐってグラウンドへ。開会式は講堂ではなく、このグラウンドで行われることになっている。当然持ち場を離れられない生徒のために校内放送も使われるが、祭好きな連中はそれだけでは我慢できまい。
 そしてその予想通り、グラウンドには既に何人もの生徒が特設ステージの周りへ集まっていた。女子のが多いのは会長見たさか、あるいは体よく男子に出し物の準備を任せたか。おそらく両方だろう。
「ふむ、ここは昔はなかったな。なかなか良い設備だ」
「『新』敷地って言うくらいですからね」
 グラウンドの教室棟側には特設ステージがあり、生徒たちが群れをなしているが、その反対のクラブハウス側ではグラウンドを細かく仕切って様々な用具が置かれていた。
 例を挙げればサッカーゴールやハードル、バスケットのゴールや野球のグラブなど。おそらくは運動部の出し物だろう。外部客とうちのバスケ部が対戦する3ON3の申請などは、監督生室でチェックした覚えがある。司はその運動神経を生かして一儲けするようなことを言っていたが、ま、それは聞かなかったことにしておいた。
「しかし、どの部も大変だよなあ……」
 生徒会からの予算配分に携わったこともあり、そんな感想が口から漏れ出る。
 文化部もそうだが、出店を開いてお金を稼ごうとする部がある一方、こうして得意のイベントを開いて部の知名度を上げようとする部もあるということだ。どちらも一応部活動のための行為であるので、特に前者が悪いというわけでもない。賭けはまずいが。
 そうして伽耶さんがきょろきょろと物珍しげに運動用具を眺めているのを見守っていると、きーん、と放送のスイッチが入った音がして。
「れでぃーすえーんどじぇんとるめん! これより開会式を行いたいと思うので、手の空いている人や、手は空いてないけれどどーしても開会式を見たい人たちは今すぐグラウンドの特設ステージへ集まってくれ! もちろん、ここに来れない人も心は一つだ、放送を聞きながら一体となって盛り上がろうじゃないか!」
 会長の声がスピーカーから流れ出す。応じて、「うおー!」とか「きゃー!」なんて歓声がそこかしこから聞こえてきた。相変わらず、えらい人気。女子だけでなく男子からすら人気が高いのだから、もう言うことはないだろう。
「まったく。変わらんな、あの男は」
 呆れ顔のそれは、間違いなく心の底からの溜息。人気っぷりを褒めておいて何だが、ちょっとだけ同意したくなりもする。
 でもやっぱり、気になることは気になるもので。
「伽耶さん、折角ですから開会式を見ていきましょうか。おそらく副会長も、開会式が終わるまでは動くに動けないでしょうから」
「そうか。ならばそうすると……っと」
 頷き途中、集まってきた生徒の波に押されて躓く伽耶さん。からからと下駄が不規則に鳴り、ようやくといった感じでなんとか踏みとどまる。このくらいで怒らない程度にはやっぱり社会常識を身につけてくれていたようで、「人が増えてきたな」と状況を把握する余裕まで見せてくれた。
 これも本人というより副会長の努力の賜物に違いない。ナイス副会長。
「きっと会長の呼びかけで集まってきたんでしょう。はぐれないように……伽耶さん?」
 目線を落とすと、そこに伽耶さんは居なかった。言葉にすればまさに子どもを持つ保護者がよく使う通りの、「ちょっと目を離した隙に」。まあ、違うのは本人の好奇心によるものか否かって点だろう。
 そうして急いで探そうと視線を回すと、生徒と生徒の隙間、からん、と下駄の足音と共にほうほうの体の伽耶さんが帰還。とりあえずほっと一息。
「ええい、誰も彼もあたしを見てないんじゃないかってくらいステージしか見ておらん。少しは足下を見んか」
「あー……」
 ステージを見るには、少しばかり上目線にならないと見えはしない。だから、というわけだ。今日は伽耶さん、あの派手な頭飾りをつけてきていないし、余計に視界から外れてしまう。
 ……というか、自分が小さい自覚はあったのね。
「伊織なんぞ見たところで、目の毒にこそなれど面白いものでもおおおお……!?」
「伽耶さん!」
 着物の袖でも引っ掛かったか、再び生徒の波に飲まれていきそうになった伽耶さんの手を掴んで何とか食い止める。ぐいっと引っ張ると、すとんと俺の懐に倒れ込んできた。着物を着込んでいるせいか、結構重い。舞い上がったその長い髪を逆の手で押さえつけると同時、着物の裾がふわりと舞った。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。だいじょう――……って、馴れ馴れしく触るでなむぎゅっ!?」
「……」
 まるでコントだ。
 俺の懐に入っていたことが分かったのだろう、彼女は離れようとして思いっきり身を逸らした。結果、当然のように後頭部を俺の前の人の背中へとぶつけ、言葉を言い終えるより先に反動で俺の胸元へ顔を突っ込んでしまったまでのこと。ぶつかった生徒に対してはなぜか代わりに俺が謝って、兄妹かと思ったか、柔らかい笑みを浮かべてその生徒は波の向こうへと消えていった。
 落ち着く暇すらありゃしない。
「あの、やっぱりあんまり離れないでください。なんか、飲み込まれたら潰されちゃいそうですし」
「ふん。言うからにはしっかりあたしの居場所を確保してくれるんだろうな?」
「そりゃもう」
 伽耶さんは鼻をさすりつつ、俺の傍らに立ちステージの方へと向き直った。なんだかんだでこの群衆から抜けていかないところを見ると、開会式に興味はあるらしい。それを指摘すれば機嫌を損ねてしまうから言わないし、同様に手を繋いだままなのも言わないでおこうと思う。
 ちなみにその小さな手、少しばかり汗ばんでいるのはやはり暑いのか。せめて白い和服を着てくればいいと思うのだが。
「む、始まるようだな」
 ブツリ、とマイクの電源音がスピーカーから鳴る。呼応し、生徒たちのざわめきも少しばかり落ち着いて、一拍置いた後。
「上だ!」
 声はスピーカーからではなく、観客のうちの誰かから。
 同時、ぱんぱんぱんっ、と破裂音と共に連続して上がる白煙。それはステージの遥か上空、教室棟の屋上から。十では聞かない数の空砲が連発され、屋上が煙まみれになった頃、最後の一発と共に大きな物体がまるでヒーローものの主役が参上するときのようにそこからステージ方向へと飛び出してきて。
 先ほど「上だ!」と叫んだ誰か、それと同じような位置から再びの叫び声。
 それで気付いた。サクラだ、あいつら。
「鳥だ!」
「飛行機だ!」
「いや――」
 少し溜め、声を合わせて。
「会長だ!」
 瞬間、その落下物からぶわっとパラシュートが開く。太陽光を背後に舞い降りるその姿、着ているのはなぜか軍服で、帽子の隙間から特有の金髪がひらひらと揺れているのが分かった。会長であることを確認し、途端に歓声が沸き上がる。
「こりゃあとで東儀先輩から怒られますね、会長」
 絶対同意を得ていないに違いない。東儀先輩の渋顔が目に浮かぶようだ。
 そんな俺の懸念など露知らず、そのまま会長は声援を一身に受けつつパラシュートを外しながらステージへと着地。合わせて後方、特撮さながらの爆炎が会長の登場を歓迎するかのように燃え上がった。加えて、ぷしゅーっと、どこから調達したのかステージの脇からは赤白黄色の煙までもが吹き出す。なんだかよくわからないポーズまで決めて、おそらくは見ている生徒たちもよく分からないままに大きな歓声をあげて。
 意味不明だけどボルテージだけは最高潮。会長の得意技だ。
「ノってるかーい!?」
「いえーい!」
 会場のノリはバブルのにほひを感じさせるそれだが、それでも勢いは失われない。会長はその反応にうんうんと満足げに頷いた後、着ていた軍服をびりびりっと左右に割って会場へと放り投げた。それでまた会場は沸き、軍服の下、着ていたのはなんとタキシード。沸いた会場、それでも更に声は上がって、黄色い声援が割れんばかりに爆発する。
 理由はその服装。西洋風の顔立ちの会長だ、タキシードの似合いっぷりは男の俺から見てもハンパない。しかもそれだけの声援を受けても、平然と微笑む余裕まであるのだから畏れ入ってしまう。
 会長は持っているマイクをくるっと一回転させ、
「さあ、待ちに待った文化祭だ! この会場に居るみんなも、準備で来ていないみんなも、その目的は一つ! 文化祭の成功! お堅いことは必要ナシ、今日明日ばかりはどんどん盛り上がってくれ! それじゃ、これをもって僕からの開会宣言とする! みんないくぞー!」
「うおおおおおおお!」
 男女の別なく、地鳴りのような叫声があがる。どこからかクラッカーの音までもが響いてきて。

 ――九月十三日、午前十時。
 こうして、尋常ならざる熱気とともに文化祭が始まった。

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