質より

[da capo U short story]
 質より量。
 そう、時代は質より量なのだ――!


 その1・朝倉音姫の場合

「音姉!」

「ど、どうしたの、弟くん。そんなに慌てて」

「時代は質より量なんだよ!」

「はあ……?」

「分かんないかなあ。
 質より量! いいか音姉、質より量だよ!?」

「えっと……ごめん弟くん、何が言いたいのかさっぱり……」

「量すなわちこれ大きさ!
 形が良かろうと張りがあろうと、やっぱり大きさには勝てないんだよ!」

「へ? 形? 張り? 一体何の話?」

「何ってそりゃもちろん、その小ぶりなムn――」

「……桜、もう枯れちゃいましたよ」

「は?」

「前は、いつも4月みたいに咲き続けてたのに。
 もう、見る影もありませんね」

「え、ちょ、音姉?」

「たぶん、信じてくれないと思うんですけど、私ね……実は、魔法使いなんですよ」

「いや、あの……」

「あなたは、存在してはいけないものだから。
 だから……これでさよならです」

 直後、がくっと膝が折れた。身体中から力が逃げていく。

 え……何コレこういうオチなの?

「私は正義の魔法使いだから」

 冗談だって、音姉ぇーーーーーーーーー!



 その2・朝倉由夢の場合

「由夢!」

「ちょ、ちょっと勝手に入ってこないでよ、兄さん!
 いつもノックしてって言ってるでしょ? まったくもう……」

「そんなことはどうでもいいんだ由夢。
 それより時代は質より量なんだよ!」

「そんなことってあのね、」

「質より量! ウン十万円もするドレスなんかより、お前ならジャージ百着のが嬉しいだろ!?
 ほら、質より量! 由夢の場合はドレスよりジャージ!」

「そんなことあるわけ――」

「あ! あれだな、あの恥ずかしポエムもそうだな!
 質は大したことなさそうだけど、量だけはありそうだもんな!」

「……兄さん、わたしも一つ思いついたので、十分くらいしたらリビングに降りてきてくれます?」

「お、なんだ、質より量をくれるのか?」

「ええ、日頃お世話になってる兄さんにたっっっっっっっっぷりお礼をしますので」

「よし、分かった! 十分後に下行くぞ!」


  …


「あれ、由夢ちゃん。弟くんは?」

「”食べ過ぎで”部屋で寝込んでます。”食べ過ぎで”」

「あらら。ちょっと様子を見てこようかな」

 ……。

「……ばーか」



 その3・天枷美夏の場合

「もぐもぐ……。
 うおーい、天枷!」

「ちっ、桜内か……。
 なんだ? 美夏はこれでも忙しいのだ」

「じふぁいは質より量だと思わんか?」

「時Φ? 波動関数のことか?
 ……って、ああー! それは幻の――」

「んぐ、バナナなんてどれも同じかと思ったが、割と味が違うもんなんだな。
 嫌いなお前には関係ないだろうが」

「あ、あ、あ……ごくり」

「ちなみに購買で売ってるバナナがだいたい一本50円。
 今俺が食ってるのは……いくらだっけな」

「国産無農薬の、1本525円だ。初音島では港近くの直営店でしか手に入らないバナナだぞ!」

「なんだよ、詳しいな。バナナ嫌いなくせに」

「ぬぐぐ……」

「まだ余ってるんだけどなあ。これなら学食のバナナを10倍食った方がマシだな」

「よ、よこせ」

「んあ? ……もぐもぐ」

「よこせと言っている! 今にも美夏のバナナミンが切れそうだ!
 うあー、むぐー、うおー」

「お? おおそうか、じゃあ学食のバナナを1本やろう」

「は?」

「いやー、やっぱ時代は質より量だろ?
 あ、何なら学食のバナナ10本やるよ。俺こんなに食えないし」

「いや、なんだ、その……貴様が食っていたバナナはもうないのか?」

「あるけどさ。バナナミンの量は、値段と関係ないだろ。
 安いの十本のが摂取量多いぞ」

「ぬうう」

「質より量。ましてバナナ嫌いなんだから、質はいらんだろ、質は」

「ええーい! ごちゃごちゃ言わずとっとと寄越せ!」

「うおっ、バカ、飛びつくな、なんだよその構え!?」

「喰らえ! ロケットパーンチ!」

「そんなバナナー!?」



 その4・板橋渉の場合

「渉! 時代は質より量だろ!?」

「な、なんだいきなり。
 ……ははーん、分かったぞ。いやあ、義之もやっとその気になったか!」

「質より量! 渉はどのくらいの量だ?」

「100人を超えてから数えるのやめたぜ、くそー!
 なんで誰も付き合ってくれないんだよ! 俺と商店街でデートするのがそんなに嫌なのか!?
 ……あ、そこのおねーさん、どうッスか、これから?
 え? ダメ? そこをなんとか――ぎゃふん」

「だめだめじゃねえか。別にデートなんて――。
 ……あ、音姉、帰りにカラオケでも行かない?」

「あ、弟くーん。まゆきも一緒だけどいいかな?」

「ああ、いいよ。んじゃあ校門で待っててくれ。
 ……あ、ななかもどう、これから?」

「ん? いいよー。せっかくだから小恋も誘ってみるね」

「おう。
 ……あ、杏に茜。どうだ、これからカラオケ――」

「ばかっ! 義之のばかあ!
 お前なんか知るか! 月島まで……月島までえええええ!」

「……なんだあいつ?
 まあいいや。それでどうだ、これから?」

「うう、渉くんに世間の風は厳しかったね〜」

「不憫ね……」

「……?
 あ、由夢に天枷! どうだ、これから――」



 その5・芳乃さくらの場合

「さくらさんっ!」

「うにゃ!? ど、どうしたの義之くん、何かあった?」

「さくらさん、時代は質より量ですよね!?」

「へ? あ、あ、うーん、そうなの……かな?
 江戸時代と比べると物が溢れてるもんね」

「なんで江戸時代と比べるのかはあえて聞きませんけど、さすがさくらさん!
 あ、そういえばさくらさんも質より量ですね」

「ん? ボクが質より量って、何のこと?」

「いやあ、人はどんな暮らしぶりでも、とりあえず歳を重ねさえすれば偉くなるというか――」

「……五十年前、桜はボクが枯らせたんだ」

「へあ?」

「願いを叶える魔法の桜の木には、致命的なバグがあったんだよ」

「え? またこのパターン?」

「みんなボクが悪いんだ。ボクの我が儘のせいで、みんなが……」

「いや、だから――」

「だからボクが責任を取って、今度の桜も枯らす。植えたのは、ボクだから」

 がくっと膝が落ちる。気分はまるで重力300倍のトレーニングルーム。

「……ごめんね」

 さくらさんは耳元で泣きながら囁いて――って。

 別に頼んでないですって! 謝るくらいなら枯らせなければいいじゃくぁwせdrftgyふじこlp






 続かない。

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Short Story -D.C.U
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