薫風のタイムトラベラー

[da capo U short story]
「それで私のところに来た、と?
 その判断は間違いではないと思うけれど……」

 そう言うと、水越博士は大きく溜息を吐いた。
 顔にはでかでかと「呆れた」と書いてある。その対象が自分自身なのだから、博士にとっては二重の意味で呆れた話だろう。

「それであなた、私が言いたいことは分かってるだろうけど、それに従うつもりはないのね?」
「ああ。それではこの時代に来た意味がない。
 それに博士自身の許可も得ている。……ああいや、博士と言っても博士ではなくてな」
「ええ、ええ、分かってるわ。今の『私』ではなくて、一年かそこいら後の『私』に、でしょ?」

 そう、時は五月二十六日、体育祭。
 しかしただの体育祭ではない。なんと、美夏の目覚めた日から七ヶ月前の! 五十年経過した技術革新というものは凄まじく、美夏はタイムスリップしてこの時代にやってきたのだ。
 杉並の吠え面が目に浮かぶわ。もっとも、この時代の杉並とは会えないから、自慢するとしても現代――ああいや、つまり美夏本来の時間軸に戻ってからの話になるだろうが。

「しかしあの天枷美夏が本当に起動するとはね……。データとも一致しているし、『この時代の』天枷美夏は未だに洞窟でスリープ状態を維持しているとの確認が取れた。あなたが天枷美夏で、未来から来たことを信じるしかない、ってことか……。
 いつだっけ?」
「十二月十六日の昼休みだ」
「ん、了解。
 ……杉並くんが入れたということは、それまでにセキュリティを切っておくわけか。めんどくさいわね、未来を調整するっていうのも」

 有刺鉄線くらいは切れるかしら、などと言いつつ水越先生は手帳に何やらメモっていた。
 もちろん溜息はデフォだ。

「では、伝えるべきことは伝えたからな。美夏は体育祭を見てくるぞ」
「ええ。ただし、繰り返すけどくれぐれも知人と接点を持たないように。
 もっとも、未来の私も充分注意したとは思うけれど」
「ああ、博士自身に出発前、耳にタコができるほど聞かされたぞ。もう一度あの注意を聞くことになるのは、流石に勘弁願いたい」

 なんせ出発前のまる一日が、諸注意によって潰されてしまったくらいだ。
 朝九時に話し始めて、やってはいけないことのオンパレード。とにかく失敗すれば何が起こるか分からないのだから、その中でも考えられる最悪の自体を延々と説明されもした。とにかくヤバいということだけは、美夏にも分かったが。

 ちなみにタイムマシンの理屈については、「理屈? バカねー、こういうときは『リョウシロン』って単語を使えば何でも解決できるのよ」なんてあくびしながら言われてしまった。
 知ってて良かったリョウシロン。今度から美夏も困ったときはそう言い訳してみよう。寝て起きたらその世界は珪素生命体と人類が戦争してたとか、終わらない七日間を繰り返す世界だったとか、そういうときにも有効らしい。「まあ時間遡行はむしろ相対性理論の方だと思うけどね」なんて呟きも聞こえたが、美夏には難しい理論など知る由もない。

「それじゃ、行ってらっしゃい。
 だいたいこの世界で何が起ころうと、イカレたことになるのはどうせ未来の時間軸の方だろうし。知ったこっちゃ無いわ」
「よくわからんが、とりあえず協力感謝する。美夏が起きる前の博士に会えて嬉しかったぞ」
「あはは、私もあなたと会えるのを楽しみにしてるわ」

 ちゃお、と言って水越博士は手を振って美夏を送り出してくれた。
 うん、やはり博士はいつの時代も頼りになる。

「……わざと未来と違う行動を取って、いっそ決定論をぶっ壊してみるのも……。
 いやいや、それにはあの天枷が未来から来たという確たる証拠が……いやそもそもこの円環構造自体が……」

 アブない呟きは聞き流すことにした。
 気のせいだ、きっと気のせい。うん。


       ○  ○  ○


 体育祭は既に始まっていた。グラウンドではいくつかの競技がスタートしており、各クラスの生徒も所定の位置に戻っている。
 校庭がこうしてイベントに使われているのはクリパくらいでしか見たことがないのだが、体育祭のそれはクリパの彩りとはまた随分と違って見えた。

「さて、どこに……ん?」

 校舎から校庭に出て、どこに腰を降ろそうかとグラウンドを眺め回していると、妙にこそこそしている動きが目に入った。
 おそらく美夏が校舎側に居るから見えたのだろう。きっとグラウンド側からは見えないその動き。間違いなく。

「杉並か……何をやってるんだか」

 100m走で使うようなスターティングブロックを持ってうろうろしつつ、ちらちらと副会長――って、いまは副会長じゃないか。まあともかく――の様子を窺っている。
 おそらくはあのブロック、何か細工がしてあるのだろう。ほんと、美夏が起きる前からあんなバカをやっていたというわけだ、あの男は。

「うーん、杉並くんはやめておいた方が良いと思うよ?」
「うひゃっ!?」
「あ、ごめんごめん、驚かせちゃった?」

 驚きもする。背後から急に声をかけられては。

 振り向くと、そこには私服の女性が居た。まだ女子学生と言っても通用する年齢。
 もしかして遅刻者か、あるいは誰かの姉か何かかと疑ってみたが、まるで見当がつかない。あっちの時間軸でも会ったことはないだろう。

 そう見つめていると、相手が視線に気付いたようで、「やっぱり」というような表情でにこっと笑った。
 なかなか綺麗な人だと思う。杏先輩には及ばないが。

「キミ、新入生でしょ? 仕草が固かったし、可愛らしいからそうかなーと思ったんだ。
 うん、でも彼はやめておいた方がいいよ。見た目は良いんだけどねー、性格がちょっと……あ、すぐに知ることになるとは思うけど。今回も何かやってるみたいだし」
「ええと、あ、いや」
「うん、私?」

 こくこくと首を振る。
 杉並が変わり者なのは重々承知している。むしろそれを知る私服の貴方は誰なのだ?

「私を知らないってことは、そっか、やっぱり新入生か。
 私ね、去年の卒業生なの。生徒会長やってた宮代って言います。キミは?」
「ん? 美夏は――っと」

 危ない危ない。
 美夏がここで名前を言えば、何がどうなるか分かったものではない。しかし偽名というのもすぐには思いつかず、さてどうしたものかと考えあぐねてみたものの。

「ふーん、美夏さんか。よろしくね」

 なんて腕を差し出されて。

 天枷美夏、一生の不覚。
 まさか自らの一人称によって名前がバレてしまうなどと、誰が想定できようか! いいや、できまい!?

 ほ、ほら、そもそも日常生活において名前を隠すという行為が不要な現代社会を生き抜いている美夏にとってそこには想定外の困難があるであろうことは推測できたものの例え美夏といえど自らの一人称を省みることなどできようはずもないなぜならそれは美夏にとってはフレーム問題という最大の関門が存在しているわけでだいたいそんなことをすれば色々と――

「よろしくね?」
「……ああ」

 その柔和な笑みに促され、渋々とその手を握ってしまった。
 音姫先輩もなかなかの人格者だが、この宮代先輩というのも劣らず器の大きい人だということがすぐに理解できた。今年度の――美夏から見れば昨年度の――生徒会長である磯鷲ナントカという奴とは大きな違いだ。

 それからしばらく、抜け出そうにも抜け出せず、美夏はその宮代先輩としばらく喋っていたのだった。


       ○  ○  ○


「3位! 3年3組!」
「お?」

 副会長――って今は以下略――の声が響いてきたのは、宮代先輩と別れてしばらくしてからだった。
 見れば義之がグラウンドで跳ねており、そこには見慣れたいつもの面子が労いの言葉を投げかけている。少しだけなんだかほっとしてしまった。

 ちなみにどうやら二人三脚だか三人四脚だかだったようで、義之の隣には杏先輩も居た。
 杏先輩が何か言って、隣で義之と月島がわたわたと反論している。いつもの光景。少しだけ羨ましい。

「……ま、それはともかくとして」

 視線を切って、本部に張り出されているスケジュールを見る。
 三人四脚の次はでかでかと『昼休み』と書かれていた。

 そこではたと気付く。
 今の美夏は食べる場所どころか、食べ物も先立つものも持っていないということに。
 普段であれば義之の弁当を食うなり金を借りるなりできたのだが、今日はそれも無理だろう。

「仕方ない、博士の世話になるとするか……」

 由夢は保健委員だが昼は義之と食っているだろうし、それにバナナミンの補給も必要だし。
 水越博士に事情を話してバナナを買ってきて貰おう。


       ○  ○  ○


 というわけで昼食を済ませ、午後の部。
 保健室まで響いていた応援合戦――声からして白河か?――はとうに終わり、グラウンドでは何か競走が行われていた。
 レーンには封筒が並べられている。借り物競走だ。

 前のレースが終わって、係員がレーンに封筒を並べていく。
 そのうちの一人、帽子を深々と被っている男の顔がどう見ても杉並なのは、きっと美夏の目の錯覚だろう。
 まさか借り物でイカサマだなんて、いやいやまさか。

「すいません、風見学園の体育祭というのは、一般客も見ていいものなんでしょうかねえ?」

 ぼけっとしてると、背後から再び声。
 今度は誰だよと半ば呆れつつ振り返る。

「えーっと、特に保護者というわけではないんですが、地方誌の記者をやってまして……」

 丁寧な物腰で、人なつっこい笑みを浮かべる男性がそこにいた。
 やっぱりどうしてか見たことのない人物だ。腰の低い態度の割に肩幅は広く、ラグビーや柔道でもやっているのではと思わせる出で立ち。キャップを逆にして被るのはその年齢にそぐわないと言えばそうかもしれないが、その爽やかさがギャップを帳消しにしている。

「いいのではないか? さっきっから私服の連中もうろちょろしているし、そもそも入ってこれたというのなら開放しているのだろう。
 よもや裏口からこそこそ入ってきたのではあるまい?」
「そ、そりゃそうですよ。ちゃんと正門から入ってきたんですけど、受付とか見当たらなくて」
「なら構わんのだろう、きっと」

 そうしてグラウンドを見やる。義之が音姫先輩の手を引っ張ってゴールを目指していた。
 人が借り物とは珍しい。ちょっとだけ気にくわないが。

「いやあ、この学校は元気があっていいですねえ。
 島の風土っていうんでしょうか、そういうのがそうさせるんですかね」

 いかにも爽やか熱血漢が言いそうな台詞を、さも当然のように男性は吐いた。
 世間話は好きではないのだが。まあ一人でぽつっと立っていても逆に目立つだろうし。

「本島から来たのか?」
「ええ。というかまあ、正確には越してくる予定、なんですけどね。
 娘がちょっと病弱なもんでして、その療養にはこの島が向いているかなと」
「ふむ。まあ、本島よりは空気も綺麗だし、自然も多いな。
 ただ病院は水越病院くらいしかないから、越すならその辺りも気を付けた方がよかろう」
「……そうですね、そうします」

 ちらっと横目で見ると、男性はすまなそうな表情を浮かべていた。
 余計なお世話だったということか。美夏とてそのくらいは分かるようになった。男性が何か言わないのは、真実を言えば美夏に気を使わせると考えているからだと。
 ということはつまり、その娘とやらは水越病院への入院が決まっているのだろう。

「水越病院は良いところだぞ。
 美夏も別件でよく行くが、あそこは医療の質もスタッフの人柄も悪くない。μが多少多いがな」
「そうなんですか。それなら良かった。
 μは僕は特には」
「ふむ。なら大丈夫だろう」

 グラウンドへと視線を戻す。
 義之が観衆の注目の的となっていた。美夏も始めてみたぞ、校庭のど真ん中で正座なんて。


       ○  ○  ○


 借り物競走が終わる頃にはさっきの男性とも別れ、美夏は生徒たちからは死角になる倉庫裏からグラウンドを眺めていた。
 ここは数少ない日陰となるためそれなりに人が居るが、知り合いは居ないから大丈夫だろう。死角だからといって望遠レンズ付のカメラを構えている奴が居たが、きっと正規のカメラマンに違いない。まして迷彩の布を被って、美夏にすら気付かないくらい集中している杉並だなんて、そんなこと。

 と。

「ほら、ユカリ! 今暇そうにしてるよ!」
「え、え、でも……ほら、すぐ次の競技出るかもしれないし」
「クラス対抗リレーまで予定が空いてるはず、って言ったのユカリじゃない〜」

 物陰でこそこそとグラウンドの方を眺めつつ、やいのやいのやってる三人組が目に入った。
 確かあっちの時間軸で美夏と同じ学年だった生徒たちだ。生憎ながら名前は覚えていない。一人はユカリ、というらしいが。

「大丈夫、先輩は優しいって評判なんだから。聞いてくれるって!」
「だめだよ、やっぱり迷惑になるよ……」
「前のときもそう言ってたじゃない! このままじゃ先輩、本校に上がっちゃうよ?」

 ふむ。だいたい事態は飲み込めた。
 三人組の真ん中の気弱そうな女子が、何か意中の先輩に告白しようと言うのだろう。というか、横の二人が告白させようとしている、がより正しい解釈か。

 来年本校に上がる、ということは義之たちの学年だ。であれば告白相手は杉並か板橋か、あるいはバスケ部のナントカって奴か。
 前者二人は死んでもやめておけ、と心の中で忠告しておいてやる。

 んが。

「だ、だって桜内先輩人気者だもん……。私の言うことを聞いてくれる時間なんて……」
「ぶ――――ッ!」

 思わず頭を抱えた。

 まあまあそこの娘さんや、若い命を無駄に捨てることはなかろう。奴は極悪非道かつ冷徹残虐……とまでは言わないが、頭は悪いし脳みそ入ってるのかってくらい人の話を聞かないときがあるし、そりゃいざって時は頼りになるけど勉強はできないし授業中は寝まくりだし、優しくしてくれるときも多いけどすぐ人をからかうしバカにするしあんな奴のどこが良いのか全く分からんね。だからやめておけ、アレなら板橋の方がまだマシだぞ、しかも板橋なら即オーケーしてくれるだろう、

 と説得したいのを何とか堪える。
 物好きな奴も居たものだ。あっちの時間軸でも義之のことを格好良いとかなんだとか言っていた奴が居たが、ほんともう、物好きとしか言いようがない。誰も義之のことを詳しくなんか知らないくせに。

 だから、真の物好きは美夏だけでいいのだ。

「えー、次は障害物競走です。参加者の方は……」

 放送が響く。声は音姫先輩のだった。

「あ、あ、あ、ほら! 桜内先輩行っちゃうよ!?
 リレーまで出ないんじゃなかったの?」
「し、知らないよー。補欠とかじゃないの?」
「あ、あうあう、ほ、ほら、やっぱり今年は縁がなかったんだよ……」

 きゃいきゃいと叫びつつ、三人娘はグラウンドとは逆方向に歩き去っていった。どうやら義之に告白することは諦めたらしい。
 まあ、そういう恋もあるさね。美夏にはよく分からんが。……美夏の時間軸に戻ったら、義之にちょっと聞いてみることにしよう。

 ――ちなみに。
 倉庫裏から本部の方へ戻る途中、杉並はとうに消えていた。相変わらず素早いんだから。
 ネットが異常な動きを始めて、義之が巻き込まれていたのもきっと気のせいということにしておけ、ということなのだろう。
 はいはい、白河の肢体に密着できてよござんしたね。……帰ったら一発殴っておこう。義之を。


       ○  ○  ○


「あら、もういいの? これからがラストを飾るクラス対抗リレーなのに」
「ああ。美夏はそういう空気が苦手なのだ。人が感動したり頑張ったりするのを見ているのが」
「ふーん。ま、ロボットのあなたがそこまで言うようになったってのは、結構凄いことかもしれないわね。
 ちょっと老成しすぎな感もあるけど」

 博士は嬉しそうに笑った。少しだけ憎らしい感情を表に出して。

 良いではないか、別に。
 頑張って、成し遂げて、感動して。そんなこそばゆいこと、自分の身に起きた奇跡を受け入れるので精一杯だ。他人のそんなものを見せられては、身体中が痒くなってしまう。

「それより義之は大丈夫だったのか? さっきまで居たみたいだが」
「ん? ああ、あれね。白河さんの肌に密着しすぎて酸欠、だそうよ。
 彼女さんとしては、帰ったら宝石の一つや二つ買って貰うべきじゃない?」
「だ、誰が――」
「まあまあ、野暮なことはいいなさんなって。呼び方を聞けば分かるわよ」
「ぬむむ……」

 天枷美夏、一生の不覚。
 まさか自らが使う呼称によって以下略。

 まあ別段付き合っているわけではないが。呼称は杏先輩の罠にはまってこうなってしまっただけのことだし。
 っと、それは置いといて。

「ま、そういうことならちょっとの間お別れかな?
 もっとも、この時代で目覚めたあなたは今のあなたとは違うでしょうけど」
「……ああ、違うと思うぞ。随分とな」

 やや自嘲する。
 よくもまあ、ここまで美夏も変わってしまったものだと自分でも思う。それもこれも義之のせいだ。なにもかも、美夏が起動してしまったことまで全部。

「……それで、帰り方はやっぱり教えてくれないの?」
「ああ。博士は『私も聞かなかったから、過去の私に教える必要はないわ。どうせすぐ気付いたし』と言っていた。
 だから、教えられん」
「そ。ま、その台詞でだいたいの見当はついたわ。
 私はその機械を用意しておいて、この時代軸のあなたが今この時間に戻りたい、って言うまで待ってればいいのね」
「そういうことだろうな」
「……そう」

 会話が途切れる。
 外からは大きな歓声。結末は既に義之から聞いている。今頃はアンカーとして走っているか、あるいはもう終わったか。

「それじゃあ、博士。世話になった」
「ええ。さようなら、天枷さん」

 例えこの世界で美夏が目覚めるとしても。
 『この』博士と『この』美夏が会うことは、もはや未来永劫ない。だから「さようなら」。天枷”さん”と呼ぶ博士を見るのは、きっとこれが最初で最後だろう。

 振り向かず、保健室を後にする。
 帰ったら義之に何て話をしようかなとか、向こうの博士はこのときどう思ったのかなとか、そんなどうでもいい考えと、あるいはもう少しだけここに留まりたいという欲求を抱えつつ。

 うん、でも、来て良かった。
 少しだけ美夏の居ない時のみんなを見て寂しかったけど、それ以上に嬉しかったから。

 願わくば、この時代の美夏にも幸多からんことを――――。


       ○  ○  ○


 帰り際。美夏は気付いてはいけないことに気付いてしまった。
 本編の登場人物に会ってはいけない、と杉並は言っていた。ということはつまり、逆に言えば”今日美夏に会った人間は、(少なくとも美夏を主軸とする)本編には出てこない”ということに。

 ……すまん、宮代先輩ほか名も知らない人たち。
 君らが出演できなかったのは美夏のせいかもしれん。悪気は無かったんだ、うん。


       ○  ○  ○


 なおもっと凄いことが起きてしまったことを、一応の追記として書いておいたほうが良いだろうか?

 元の時間軸に戻った美夏は、すぐに世界の微妙な違和を感じ取った。
 場所は天枷研究所。それは間違いない。部屋も同じだ。

 が、しかし。

「……」

 目の前では見たことあるようなないような白衣の女性、その驚いた顔と。

「あれ? 美春……じゃない、よな?
 なあ、音夢? お前には美春に見えるか?」
「え、えっと……面影は残ってるけど、髪の色を変えただけではない、ってことは分かりますよ?
 っていうかどっからどう見ても美春には見えませんけど」

 これまた見たことないようであるようででもやっぱり見たことない一組の男女がそこにいた。

 ……ふむ。
 やっぱり装置を起動したときに「ガギッ!」って音がしたのが悪かったらしい。こりゃ博士の大目玉は免れ得まい。

「あー、その、だな」

 その場に居た人たち、その代表っぽい人が歩み出でてくるのを見ながら。
 ま、なるようになるさと美夏は遠い目をしながら思うくらいしかできないのだった。

++++++++++


Short Story -D.C.U
index